研究領域 | メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤 |
研究課題/領域番号 |
22115011
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
澁木 克栄 新潟大学, 脳研究所, 教授 (40146163)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 後部頭頂連合野 / 視覚野 / 体性感覚野 / 空間認知 / プリズム眼鏡 / 経験依存的可塑性 / 視覚野脳地図 / マウス |
研究実績の概要 |
マウスは身の回りの空間を視覚とヒゲの両方を用いて探索する。しかし成長期には両者の不一致が生ずる可能性があり、両者を一致させるメカニズムが後部頭頂連合野(PPC)にあると思われる。我々は4週齢のマウスにプリズム眼鏡装着を行い、視覚とヒゲの空間不一致を人為的に導入すると、視覚野応答が抑圧されること、PPCを破壊するとこの抑圧が消失することを見出した。PPCの性質を解析するため、前方から後方へ、又は後方から前方への移動縞刺激やヒゲ刺激を加えたが、単独では何ら効果が出なかった。そこで移動縞刺激とヒゲ刺激を逆相にして加えたところ、PPCの活動がフラビン蛋白蛍光イメージングで捉えられた。ちなみに同相にして加えてもPPCの活動は誘発されなかった。神経特異的かつ多様性を有する細胞接着因子のプロトカドヘリン遺伝子改変マウスではプリズムを装着させても視覚野の抑圧は起きなかった。さらにこのとき移動縞刺激とヒゲ刺激を逆相にして加えてもPPCの活動は生じなかった。以上の結果はPPCが、視覚とヒゲの空間情報を連合する責任部位であることを示している。
プリズムを装着させて視覚とヒゲの空間情報の不一致を起こすと、単に視覚野応答が抑圧されるだけでなく、視覚野応答のシフトが生じる。今まで、特定の視野で視覚野応答のシフトが起きることを確認したが、視覚野全体で何が起きているのか、データがなかった。そこで光を30度曲げるプリズムを装着させたマウスでプリズムが影響する部位以外でシフトが起きるのか否かを解析した。その結果、プリズムで直接影響を受ける視野だけでなく、それ以外の場所でもほぼ均一に視覚野応答のシフトが起きていた。即ちPPCで検出される視覚とヒゲの空間情報の不一致は、グローバルなもので、全体として二つの感覚モダリティの位置情報がどの程度食い違うかを検出しているのではないかと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視覚入力とヒゲ入力という異なるモダリティの感覚情報を如何に連合するかを神経回路レベルで解析するのが、本研究の目的である。後部頭頂連合野(PPC)を連合の責任部位として同定出来たのは大きな進歩であり、麻酔下のマウスでもPPCの活動をフラビン蛋白蛍光イメージングによって再現性良く、捉えることができた。またプロトカドヘリン遺伝子改変マウスでPPCの応答が特異的に障害されるなど、分子・細胞機構を示唆する結果も得られ始めた。今後PPCの性質をより詳しく解析していくことにより、研究計画を順調に達成できると予想される。
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今後の研究の推進方策 |
PPCの応答について、既に麻酔下のマウスにおいてフラビン蛋白蛍光イメージングによる解析に成功している。さらに詳細な神経回路レベルの解析を、2光子顕微鏡などを用いて推し進める。またプロトカドヘリンの遺伝子改変マウスではPPCの応答に異常が出現することが判っているので、さらにこの異常を神経回路網レベルで明らかにする。
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