研究領域 | メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤 |
研究課題/領域番号 |
22115013
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
深井 朋樹 独立行政法人理化学研究所, 脳回路機能理論研究チーム, チームリーダー (40218871)
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キーワード | スパイクソーティング / 変分ベイズ / 大規模シミュレーション / 大脳皮質局所回路 / スパイク時間依存のシナプス可塑性 / 入力相関検出 / 視覚的注意 / 海馬神経回路 |
研究概要 |
多電極記録は、神経細胞集団の活動をミリ秒レベルの時間精度で測定可能な唯一の実験手法であるが、計算速度と精度の高いスパイク分離法が必要になる。以前、報告した変分ベイズ法による多細胞スパイク分離法の特長検出とスパイク構造化にさらに改良を加え、多様な発火パターンが混在する場合にも有効な手法を開発した。この方法の実用的意義は大きい。解剖及び電気生理実験のデータを用いて、層構造をもつ大脳皮質視覚野局所回路の大規模シミュレーションモデルを構築し、モデルを用いてトップダウンの注意信号による、視覚野神経細胞の刺激応答の調節と神経メカニズムを調べた。その結果から、応答の調節パターンは層依存的であることを、初めて理論的に予言した。池谷らの計測データに基づいて、海馬CA3とCA1を含むメゾ回路構造をモデル化し、実験で観察される演算機能を生み出す神経回路の学習メカニズムを同定した。近年、シナプスコンダクタンス(EPSP)の分布は、正規分布ではなく、長いテールを有する対数正規分布に従うことが明らかになっている。しかしそのような分布を生み出すメカニズムはよくわかっていない。そこで、シナプス強度の分布を自己組織化するシナプス可塑性ルールを理論的に導出した。また他のモデルに比較して、スパイク入力のわずかな同期レベルの違いの検出や、外部入力の相関構造の変化を追従できる柔軟性などにおいて、機能的に優位であることをモデルの解析のよって示した。パーキンソン病に見られるような大脳基底核の異常な同期振動活動の発生メカニズムを、回路モデルを構築して解析した。さらに大脳基底核神経回路による行動選択のモデルを例に取り、数十万個程度のニューロンで構成される局所回路の振る舞いを、リアルタイムにシミュレーションする技術を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
多細胞スパイク列の分離手法の開発では、新しい数学的手法を取り入れることで、予想以上に良い精度と計算速度を達成することが可能になった。また視覚野局所回路のシミュレーションは、局所回路内でのボトムアップの視覚刺激とトップダウンの注意信号の相互作用を記述し、大脳皮質の各層の機能分担について探る足がかりを与えた、世界で初めての大規模シミュレーションによる試みである。
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今後の研究の推進方策 |
多細胞スパイク列の時空間構造の検出について、大筋の見通しがたったので、本年度中に細部を詰めてまとめる。また近年、光イメージング法の発展によって、非常に大規模なニューロン集団の活動を同時記録することが可能になりつつある。それにあわせて、イメージングデータから神経細胞の検出を自動化するアルゴリズムや、検出された解析手法のより一層の高精度・高速化が望まれており、そのような手法の開発に力を入れる。その際鍵になるのは、データの大規模化に伴って増大する計算コストを、以下に低く押さえることができるかであるが、そのためには、あらたな機械学習の方法論の開発などが必要になる可能性が高い。次に、新しく見出したシナプス可塑性規則の情報理論的な機能や、大脳新皮質や海馬の神経回路による記憶や時系列情報処理上の意義について、さらに理論的な解析を進めたい。それにより、大脳皮質局所回路による感覚および運動情報処理の基本原理について、実験で検証可能な仮説を導きだすことを目指す。とくにそのようなシナプス可塑性が、ワーキングメモリ回路や、感覚・運動情報処理のためのベイズ推定回路の刺激依存の自発的的生成の基盤になっているという仮説を検証する。
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