研究実績の概要 |
大脳皮質の神経回路は、疎らで非常に強いシナプスと、非常に多数の弱いシナプスによって形成されていることが近年明らかになってきた。このような神経回路(strong-sparse, weak-dense構造、あるいはシナプス荷重の対数正規分布)では、密で弱いシナプスが回路内に最適ノイズを生成し、疎で強いシナプスによる信号伝達を確率共鳴によって促進する効果を生成することを、シミュレーションと理論的解析によって示した。この結果を利用し、脳の自発発火の回路的起源の説明や(Teramae et al., Sci Rep, 2012)、海馬CA3の連想記憶回路モデルの記憶性能の改善を行い(Hiratani et al., 2013)、その有効性を確認した。また前年提案した対数正規分布型のシナプス荷重を生成するlog-STDPが、入力スパイクの時間相関に基づく主成分分析を実行可能であること示した(Gilson et al., 2012)。行動中のラットの運動野神経細胞のスパイク発火のベキ統計を解析し、神経細胞がエネルギー制約条件下でノイズエントロピーを最大化するという仮説を提案して検証した(Tsubo et al., 2012, 2013)。多峰性分布をもつ特徴空間を検出して主成分分析を行う手法を開発して、多電極記録のスパイク分離の精度を、大幅に向上させることに成功した(Takekawa et al., 2012)。これにより、一つの多細胞記録データから従来法の2倍~3倍のスパイクが分離できるのみならず、手作業による修正がほとんど不要になり、大幅に作業効率が上がる。ドイツの協同研究者らと協力して、スーパーコンピュータ利用による脳の局所回路モデルのシミュレーション研究を進め、その成果を踏まえて、最近の技術的発展と将来展望についてのレビュー報告を行った(Helias et al., 2012)。
|