プロスタグランジン受容体シグナルによる生体調節の包括的探索

2013 年度 実績報告書

• 研究領域: 生命応答を制御する脂質マシナリー
• 研究課題/領域番号: 22116003
• 研究機関: 熊本大学
• 研究代表者: 杉本 幸彦 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 教授 (80243038)
• 研究期間 (年度): 2010-06-23 – 2015-03-31
• キーワード: プロスタノイド / エイコサノイド / GPCR / シグナル伝達 / 発生 / 雌性生殖生理 / 発現プロファイル / 脂肪細胞

研究概要

１）ゼブラフィッシュを用いたPG受容体の生理機能解析：ゼブラフィッシュにおける機能的なプロスタグランジン(PG)受容体計12種類を同定した。今年度は、さらに各受容体の whole mount in situ hybridizationにより、発生期におけるCOXおよび各受容体の発現部位を同定した。またゼブラフィッシュ飼育系を導入し、発生プロセスに対する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs; PG合成阻害剤)の効果、さらにPGの同時添加の効果を検討した結果、PGE2が(1)原腸陥入、(2)血管形成、(3)尾芽形成に関与する可能性を見出した。
２）PGによるマスト細胞機能制御の解析：アラキドン酸誘発性急性炎症モデルでは、PGE2-EP3シグナル系がマスト細胞の活性化を介して炎症を惹起することを見出した。一方、マスト細胞のIP受容体シグナルが、IL-33誘導性IL-6・IL-13産生を阻害し、これがエピジェネティック制御を介することを見出した。
３）マウス雌性生殖生理における収縮性PG受容体の役割：Ca2+動員型PG受容体 (FP/EP1/EP3)のトリプル欠損マウスを作成し、その卵巣切除による分娩を調べたところ、本マウスはFP欠損マウスに比して分娩が顕著に遅延し、胎児は全て死亡した。加えて、本変異マウスは着床時の胎児スペーシングおよび着床効率に異常を示したことから、収縮性PG受容体はこれらのプロセスに必須の役割を果たす可能性を見出した。
４）マウス脂肪細胞の機能におけるPG受容体の役割：脂肪細胞の分化・機能におけるEP4受容体の役割を検討した結果、EP4受容体欠損マウスが、脂肪分解の低下により脂肪組織の肥大を呈することを見出し、PGE2がEP4受容体を介して脂肪細胞におけるインスリン応答に拮抗し、脂肪分解を抑制する可能性を見出した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

班友・川原（山梨大）の協力・支援の下、TALEN法を用い、体系的なPG受容体ノックアウトzebrafishの作成を進めている。またアスピリン様薬物によるPG産生阻害、および受容体選択的薬物によるレスキュー実験を行い、ノックアウト個体の解析に向けた基礎検討が順調に進んでいる。

今後の研究の推進方策

脂肪細胞、子宮、造血組織などの各組織におけるPG機能解析を推進するため、質量分析センター（東大・有田あるいは都医学研・村上）を活用し、PG産生はもちろん、脂質メディエーターを網羅的に一斉定量解析し、全体の統合的理解を深める。

研究成果

• [雑誌論文] Prostaglandin E2-EP3 signaling induces inflammatory swelling by mast cell activation. (2014)
  • 著者名/発表者名: Morimoto, K., Shirata, N., Taketomi, Y., Tsuchiya, S., Segi-Nishida, E., Inazumi, T., Kabashima, K., Tanaka, S., Murakami, M., Narumiya, S., and Sugimoto, Y.
  • 雑誌名: J. Immunol. 巻: 192 ページ: 1130-1137
  • DOI: 10.4049/jimmunol.1300290
  • 査読あり
• [雑誌論文] Prostaglandin E2 inhibits elastogenesis in the ductus arteriosus via EP4 signaling. (2014)
  • 著者名/発表者名: Yokoyama, U., Minamisawa, S., Shioda, A. Jin, M.-H., Ishiwata, R., Masuda, M., Asou, T., Sugimoto, Y., Aoki, H., Nakamura, T., and Ishikawa, Y.
  • 雑誌名: Circulation. 巻: 129 ページ: 487-496
  • DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.113.004726
  • 査読あり
• [雑誌論文] プロスタグランジンＥ２による炎症惹起の分子機構 (2014)
  • 著者名/発表者名: 北條寬典、杉本幸彦
  • 雑誌名: 医学のあゆみ 巻: 248 ページ: 977-983
• [雑誌論文] Mast cell maturation is driven via a novel group III phospholipase A2-prostaglandin D2-DP1 receptor paracrine axis. (2013)
  • 著者名/発表者名: Taketomi, Y., Ueno, N., Kojima, T., Sato, H., Murase, R., Yamamoto, K., Tanaka, S., Ikeda, K., Taguchi, R., Kabashima, K., Gelb, M. H., Arita, M., Yokomizo, T., Nakamura, M., Watanabe, K., Hirai, H., Nakamura, M., Okayama, Y., Ra, C., Urade, Y., Sugimoto, Y., Shimizu, T., Narumiya, S., Murakami, M. et al.
  • 雑誌名: Nature Immunol. 巻: 14 ページ: 554-563
  • DOI: 10.1038/ni.2586
  • 査読あり
• [雑誌論文] Molecular and pharmacological characterization of zebrafish ‘relaxant’ prostanoid receptors. (2013)
  • 著者名/発表者名: Tsuge, K., Iwasaki, R., Morimoto, K., Inazumi, T., Kawahara, O., Kawahara, A., Tsuchiya, S., and Sugimoto, Y.
  • 雑誌名: Biochem. Biophys. Res. Commun. 巻: 436 ページ: 685-690
  • DOI: 10.1016/j.bbrc.2013.06.017
  • 査読あり
• [雑誌論文] Molecular and pharmacological characterization of zebrafish 'contractile' and 'inhibitory' prostanoid receptors. (2013)
  • 著者名/発表者名: Iwasaki, R., Tsuge, K., Morimoto, K., Inazumi, T., Kawahara, O., Kawahara, A., Tsuchiya, S., Sugimoto, Y.
  • 雑誌名: Biochem. Biophys. Res. Commun. 巻: 438 ページ: 353-358
  • DOI: 10.1016/j.bbrc.2013.07.075
  • 査読あり
• [雑誌論文] Birth regulates the initiation of sensory map formation through serotonin signaling. (2013)
  • 著者名/発表者名: Toda, T., Homma, D., Tokuoka, H., Hayakawa, I., Sugimoto, Y., Ichinose, H., and Kawasaki, H.
  • 雑誌名: Dev. Cell 巻: 27 ページ: 32-46
  • DOI: 10.1016/j.devcel.2013.09.002.
  • 査読あり
• [雑誌論文] 抗原非依存性急性炎症におけるプロスタグランジンの役割 (2013)
  • 著者名/発表者名: 杉本幸彦、森本和志、土屋創健
  • 雑誌名: 血栓と循環 巻: 21 ページ: 178-182
• [学会発表] 脂肪組織におけるプロスタグランジンの生理機能 (2014)
  • 著者名/発表者名: 杉本幸彦
  • 学会等名: 日本薬学会第134年会
  • 発表場所: 熊本
  • 年月日: 20140328-20140330
  • 招待講演
• [学会発表] プロスタグランジンF受容体FPの可視化系の構築 (2013)
  • 著者名/発表者名: 平井友貴、北條寛典、杉本聡子、野中夏姫、高宗暢暁、三隅将吾、土屋創健、杉本幸彦
  • 学会等名: 第29回日本薬学会九州支部大会
  • 発表場所: 佐世保
  • 年月日: 20131207-20131208
• [学会発表] Prostaglandins, Masct Cells, and Acute Inflammation. (2013)
  • 著者名/発表者名: Sugimoto, Y., Morimoto, K., Tsuchiya, S., Taketomi, Y., Murakami, M., and Shuh Narumiya.
  • 学会等名: 16th GEM-10th GERLI lipidomics meeting
  • 発表場所: Saint-Jean-Cap-Ferrat, France
  • 年月日: 20131110-20131114
• [学会発表] プロスタグランジンEP4受容体による視索前野ニューロンの細胞骨格制御 (2013)
  • 著者名/発表者名: 北條寛典、吉岡美樹、土屋裕義、土屋創健、川原浩一、三隅将吾、瀬木-西田恵里、杉本幸彦
  • 学会等名: 第12回次世代を担う若手ファーマ・バイオフォーラム2013
  • 発表場所: 東京
  • 年月日: 20130914-20130915
• [学会発表] プロスタグランディンと雌性生殖生理 (2013)
  • 著者名/発表者名: 杉本幸彦
  • 学会等名: フォーラム2013：衛生薬学・環境トキシコロジー
  • 発表場所: 福岡
  • 年月日: 20130913-20130914
  • 招待講演
• [学会発表] IL-33誘導性マスト細胞応答におけるプロスタサイクリン受容体IPの役割 (2013)
  • 著者名/発表者名: 鈴木佑治, 渡辺真由帆, 森本和志, 土屋創健, 成宮 周, 杉本幸彦
  • 学会等名: 第86回日本生化学会大会
  • 発表場所: 横浜
  • 年月日: 20130911-20130913
• [学会発表] プロスタグランジンによる炎症惹起の分子機構 (2013)
  • 著者名/発表者名: 杉本幸彦
  • 学会等名: 生体機能と創薬シンポジウム2013
  • 発表場所: 福岡
  • 年月日: 20130829-20130830
  • 招待講演
• [学会発表] Prostaglandins, mast cells and acute inflammation. (2013)
  • 著者名/発表者名: Yukihiko Sugimoto.
  • 学会等名: FASEB Science Research Conferences, Lysophospholipid and other Related Mediators - From Bench to Clinic
  • 発表場所: Niseko, Japan
  • 年月日: 20130804-20130809
• [学会発表] Regulation of embryo implantation and spacing by multiple prostanoid receptors. (2013)
  • 著者名/発表者名: Tsuchiya, S., Ma, X.-Y., Inazumi, T., Sugimoto, T., Takeo, T., Nakagata, N., Narumiya, S., and Sugimoto, Y.
  • 学会等名: FASEB Science Research Conferences, Lysophospholipid and other Related Mediators - From Bench to Clinic
  • 発表場所: Niseko, Japan
  • 年月日: 20130804-20130809
• [学会発表] 魚類における性行動発現の嗅覚メカニズム：性フェロモン・プロスタグランジンF2aが活性化するゼブラフィッシュ嗅覚受容体および神経回路素子の同定 (2013)
  • 著者名/発表者名: 矢吹陽一、小出哲也、宮坂信彦、脇阪紀子、増田美和、告恭史郎、杉本幸彦、渡邉和忠、吉原良浩
  • 学会等名: Neuro2013 第36回日本神経科学大会、第56回日本神経化学会大会、第23回日本神経回路学会大会
  • 発表場所: 京都
  • 年月日: 20130620-20130623
• [学会発表] 脂肪細胞におけるプロスタグランジンEP4受容体の機能解析 (2013)
  • 著者名/発表者名: 稲住知明、土屋創健、成宮 周、杉本幸彦
  • 学会等名: 第55回日本脂質生化学会
  • 発表場所: 松島
  • 年月日: 20130606-20130607