研究概要 |
本研究は、多数のホスホリパーゼA_2分子群の生体内機能ならびにそれが制御する新しい脂質代謝ネットワークの解明を目指すものである。本年度は、(1)生殖における2種類のsPLA_2アイソザイムの新しい機能的ネットワーク、(2)iPLA_2γとミトコンドリア機能について、以下の研究成果を得た。 (1)生殖における新しいsPLA_2ネットワーク (1)sPLA_2-IIIと精子成熟:sPLA_2-IIIは精巣上体の管腔上皮細胞から分泌されて内腔を通過する未熟精子の膜リン脂質のリモデリングを制御する。sPLA_2-III欠損マウスではこの反応が起こらず、運動受精能を欠く異常精子を生じる。このため、sPLA_2-III欠損マウスは著しい雄性不妊の表現型を示す(J Clin Invest 120, 1400-1414, 2010)。 (2)sPLA_2-Xと精子活性化:sPLA_2-Xは精子のアクロソームに分布し、尖体放出反応により分泌され、リゾホスファチジルコリンの産生を介して尖体放出反応を増幅する。sPLA_2-X欠損マウスではこの反応が起こらず、受精率が著しく低下し、部分的な雄性不妊の表現型を示す(J Clin Invest 120, 1415-1428, 2010)。 (2)iPLA_2γとミトコンドリア機能 iPLA_2γはミトコンドリアに局在し、カルジオリピンのリモデリングに関わる。欠損マウスは骨格筋ミトコンドリアの変性により成長遅延や筋力低下を生じる。また、欠損マウスでは筋組織におけるプロスタグランジンの代謝が一部低下する(J Lipid Res 51, 3003-3015, 2010)。
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