本年度は、質量分析センターとして生体内に微量にしか存在しない脂肪酸代謝物を高感度かつ網羅的に測定する系を確立するために、LC-MS/MSを用いたメタボローム解析システムの質の向上を目指した。研究開始当時は、高分離UPLCと三連四重極型質量分析計4000QTRAPを連結したmultiple reaction monitoring(MRM)解析システムで、約100種類の脂肪酸代謝物をピコグラムレベルで一斉定量分析が可能であったが、本年度はさらにパフォーマンスが大幅に向上した三連四重極型質量分析計QTRAP5500をUPLCと連結し、従来の5倍のスキャンスピードで約500種類の脂肪酸代謝物の一斉定量分析を行なうことが可能になった。また、化合物の同定および定量分析において必須である標準化合物についても、200種類から300種類にまで拡充した。今後はこのメタボローム解析システムをω3系脂肪酸合成酵素(fat-1)トランスジェニックマウスに適用し、ω3系脂肪酸の代謝と生理的機能について研究を進めると同時に、炎症やメタボリックシンドロームなどマウスの疾患モデルに加えて、ヒト臨床検体およびゼブラフィッシュをはじめとするモデル生物への適用を図り、「脂質メディエーターの生命現象における普遍的な役割を解明する」という領域全体の目標の達成に貢献していく。
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