計画研究
ω3脂肪酸由来の抗炎症性代謝物レゾルビンE3(RvE3)は、EPAの17位と18位が水酸化された代謝物であり、理論上は4種類の異性体(17S,18R-、17S,18S-、17R,18S-、17R,18R-diHEPE)が存在する。これら4種類の異性体をすべて有機合成し、実際に生体内で生成する内因性のRvE3の立体配置が17R,18S/R-diHEPEであることを明らかにした。さらに、有機合成によって得られた4種類の異性体について構造活性相関を調べたところ、実際に生体内で生成する内因性のRvE3においてのみ好中球の遊走を抑制する活性が認められた。この結果から、内因性に生成するRvE3の構造を特異的に認識する受容体が好中球に存在する可能性が示唆された。また、インフルエンザウイルス感染症において12/15-リポキシゲナーゼ代謝系およびω3脂肪酸由来のプロテクチンD1が内因性の制御因子であることを見いだした。プロテクチンD1には従来抗炎症作用が示されていたが、今回インフルエンザウイルス感染に対する有効性が認められた。さらにその作用機構として、ウイルスRNAが核内から細胞質へ移行する過程を阻害するという、従来の治療薬にはない新規の作用点であることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
ω3系脂肪酸由来の活性代謝物の同定と作用機構の解析という点において、新規ω3脂肪酸代謝物レゾルビンE3の完全構造決定、完全化学合成、および構造活性相関研究は十分に達成された。すなわち、LC-MS/MSを用いたメタボローム解析により推定された新規代謝物の平面構造から、理論上可能なシステムと有機化学を用いた全合成を組み合わせることにより、生体内で生成する内因性のレゾルビンE3の立体配置を完全に決定し、さらに、4種類のレゾルビンE3異性体を用いた構造活性相関から、内因性に生成するRvE3の構造を特異的に認識する受容体が存在する可能性を示した。また、病態と関連性を示す脂肪酸代謝系についての解析という点においては、メタボローム研究を通してインフルエンザウイルス感染と12/15-リポキシゲナーゼ代謝系との関与という全く新しい知見を提供した。いずれも当初の計画以上に進展し、今後の発展性が大いに期待される。
レゾルビンE3の完全化学合成に成功したことから、今後は高純度な試料を大量に得ることができ、また天然型のみならず非天然型の立体配置を有する化合物を得ることができる。さらに、トリチウムラベルなどの放射標識体の合成が可能になる。これらを用いた標的分子の探索研究を今後進めていく。また、プロテクチンD1の抗インフルエンザウイルス作用が培養細胞レベルでも確認されることから、今後は抗インフルエンザウイルス作用に関わる標的分子の同定を目指す。
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