研究領域 | 翻訳後修飾によるシグナル伝達制御の分子基盤と疾患発症におけるその破綻 |
研究課題/領域番号 |
22117002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 純一郎 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70176428)
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研究分担者 |
尾山 大明 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (30422398)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ユビキチン / シグナル伝達 / 構造生物学 / 数理モデル / 質量分析 |
研究実績の概要 |
研究計画を遂行し以下の結果を得た。 1)NF-kBの活性化に必須なIkBキナーゼ(IKK)複合体に結合する分子を質量分析担当の分担者尾山と探索し、p47を同定した。p47は刺激依存的にユビキチン化され活性化されたIKK複合体のサブユニットNEMOをライソゾームで分解してNF-kBの活性化を負に制御する分子であると考えられた。2)TRAF6/MEKK3/TAK1シグナル複合体形成におけるTAK1のK63型ポリユビキチン化の役割を解明するための研究において既にMEKK3と結合する分子としてp62を同定しているが、p62の関連分子NBR1がIL-1及びTNFaによるNF-kB活性化を正に関与していることを見出した。3)複合体に結合し、サイトカインによるNF-kB活性化には影響を与えずTaxによるNF-kB活性化のみを促進するタンパク質を見出した。4)NF-kBの非古典的経路においてTRAF2とTRAF3の相互作用を阻害することでその活性化に関与する新たなタンパク質を同定した。5)Basal型乳癌細胞株においてNF-kBの活性化がCD44陽性, CD24陰性のがん幹細胞分画の顕著な増大を誘導することを既に明らかにしたが、NF-kBで発現誘導されたJAG1によるNotchシグナルの活性化が関与していることを明らかにした。6)K63型ユビキチン鎖に結合するペプチドを合成し、そのペプチドを共有結合させたアフィニティーカラムを作成することでK63型ユビキチン鎖を濃縮することに成功した。現在作成したアフィニティーカラムで細胞破壊液からK63型ユビキチン化タンパク質の精製を試みている。7)古典的経路におけるNF-kB活性化のオシレーションの3次元シミュレーションに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
刺激依存的に形成されるポリユビキチン鎖を標的にしてNF-kB活性化を負に制御する新たなタンパク質p47を同定したこと、そしてA03市川班と連携してNF-kBの3次元シミュレーションに成功したことは大きな成果であり、ほぼ順調に目的を達成できたことを示している。さらに疾患との関連では、乳癌幹細胞の維持におけるNF-kB活性化の新たな役割を明らかにできたことはこの分野の進展に大きく貢献したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)翻訳後修飾による新たなシグナル制御機構解明:本研究で同定したp47は、Lys63型や直鎖状ユビキチン化されたNEMOをリソゾームで分解させるという全く新たなNF-kBの活性制御機構である。また、p62やNBR1もユビキチン鎖結合ドメインを持ちNF-kBの活性制御において新たなメカニズムが明らかになる可能性が高い。さらに、TaxによるNF-kB活性化は白血病発症に深く関与しながらその分子機構は解明されていない。本研究では細胞質にTaxを加えることでポリユビキチン鎖が形成されることを明らかにしており、ユビキチン鎖を介するNF-kBの新たな活性化機構の解明が期待される。 2)未知の翻訳後修飾の同定を念頭においた基盤技術の導入:NF-kBの時空間的挙動をモニターするシステムの確立のため、NF-kBのサブユニットであるRelBと蛍光タンパク質Venusが融合したRelB-Venusのノックインマウスから細胞株を樹立した。この細胞をリンホトキシンで刺激すると興味深いことにRelBは核移行と核外移行を繰り返しオシレーションした。このときオシレーションの周期が約1.5時間の細胞群と約3時間の細胞群が存在した。異なるオシレーションの遺伝子発現における意義やその制御を担う翻訳後修飾の解明を進めることで新たなシグナルに時空間的制御機構が明らかになることが期待される。 3)遺伝子改変マウスを用いた疾患との関連解明:本研究で同定した新規の負の制御タンパク質p47のノックアウトマウスを解析しp47と疾患との関係を明らかにする。また、今後同定される因子についても積極的にマウスの実験系を用いて疾患との関連を明らかにする。
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