研究領域 | 翻訳後修飾によるシグナル伝達制御の分子基盤と疾患発症におけるその破綻 |
研究課題/領域番号 |
22117003
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
武川 睦寛 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (30322332)
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研究分担者 |
冨田 太一郎 東京大学, 医科学研究所, 助教 (70396886)
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キーワード | シグナル伝達 / 細胞増殖 / 翻訳後修飾 / 癌 |
研究概要 |
ヒト細胞には、主に細胞増殖に作用するERK経路とストレス応答に関与するp38/JNK経路という、複数のMAPキナーゼ経路が存在する。これらMAPK経路の制御異常が、癌や自己免疫疾患などの発症に深く関与する事が知られている。しかしながら、MAPK経路の活性制御機構や、疾患における制御異常の詳細には不明な点が数多く残されており、その解明は疾患克服の観点からも重要である。昨年度までの研究において我々は、ERK経路のMAPKKであるMEKが、細胞内でユビキチン様分子SUMOによって翻訳後修飾されること、さらにその結果、MEKとその基質であるERKとの分子間結合が阻害されて、ERKの活性化が抑制されることを明らかにした。また、ヒト癌で高率に遺伝子変異が認められる癌遺伝子Rasが、MEKのSUMO化を阻害してERK経路を強く活性化し、発癌を招くことを明らかにした。即ち、癌遺伝子Rasは、Rafを活性化すると同時に、MEKのSUMO化修飾による不活性化を阻止する、という二重の機構によってERK経路を強く、そして効率良く活性化し、発癌を導くことを示した。今年度は、この研究をさらに推し進め、易発癌性を示す先天性Ras-MAPK症候群や孤発性癌で見出されるMEK遺伝子のミスセンス変異が翻訳後修飾の異常を惹起して、発癌や癌細胞の抗癌剤抵抗性獲得に寄与することを見出した。 またMAPKの新たな基質分子として、ERKによってリン酸化される新規分子MSP1を同定することに成功し、MSP1が特定遺伝子の発現を制御する事で細胞分化に寄与する事を明らかにした。さらにMAPK経路の活性制御に関わる複数の分子が、細胞内でグリコシル化されていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MAPKシグナルの新たな制御機構としてMEKのSUMO化による活性調節を見出し、さらにヒト癌で高率に遺伝子変異が認められる癌遺伝子RasがSUMO化を阻害して、発癌を導くことを明らかにした。また、MAPK経路の新たなターゲット分子として、新規分子MSP1を同定することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後更にMEK-SUMO化異常と発癌・癌病態との関連を分子レベル、個体レベルで解明する。 また、ERKの新規基質分子MSP1に関しては、MSP1が細胞分化に果たす役割を遺伝子発現調節の観点から生化学的に解明すると共に、遺伝子破壊マウスを作成して発生や疾患発症における機能明らかにする。さらに、MAPK経路の活性制御に果たす蛋白質グリコシル化の意義を明らかにする。
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