研究領域 | 翻訳後修飾によるシグナル伝達制御の分子基盤と疾患発症におけるその破綻 |
研究課題/領域番号 |
22117005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高橋 雅英 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40183446)
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研究分担者 |
榎本 篤 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20432255)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Girdin / リン酸化 / がんの浸潤、転移 / 病的血管新生 |
研究実績の概要 |
1. 神経膠芽腫の浸潤能およびがん幹細胞性維持におけるGirdinの役割 神経膠芽腫においてPI3K-Aktシグナル伝達系が活性化されていることが報告されている。摘出された神経膠芽腫からsphere形成能を指標に樹立された細胞株を用いて、腫瘍細胞の浸潤能と幹細胞のマーカー遺伝子の発現におけるGirdinの役割を解析した。Girdinの発現をshort hairpin RNAによりノックダウンした細胞株を樹立し、マウス脳スライス上での浸潤能を検討したところ、Girdinをノックダウンした細胞では浸潤能が著しく低下した。またマウス脳内に移植したノックダウン細胞は生体内における腫瘍形成能が減弱し、長期生存が可能であった。さらにGirdinノックダウン神経膠芽腫細胞では幹細胞マーカーであるCD133, nestin, Oct-4, Sox2などの遺伝子発現が減弱し、腫瘍幹細胞性の維持にGirdinが関わっていることを示唆した。 2. 酸素誘発網膜症モデルにおける病的血管新生におけるリン酸化Girdinの役割 新生仔期マウスを75%程度の高濃度酸素状況下に5日間曝露し、さらに通常環境下で5日間飼育した。その後経時的に網膜を摘出し、異常血管新生の程度を野生型とS1416Aマウスの両群で比較した。S1416Aマウスでは異常血管新生の程度は有意に低下しており、GirdinのAktによるリン酸化が病的血管新生において重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらにVEGFを網膜に過剰発現するトランスジェックマウスにおける病的血管新生についても、S1416Aマウスと交配することにより、有意に低下することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトにおいてGirdinのAktによるリン酸化部位に変異を導入したノックインマウスおよびGirdinのドミナントネガティブ変異体を作成することにより、がんの浸潤、転移、血管新生、血管内膜肥厚の病態形成におけるGirdinのリン酸化の意義を系統的に解析してきた。その結果、Glioblastomaの浸潤能に、Girdinの発現とAktによるリン酸化が重要であると同時に、幹細胞マーカーであるSox2やnestinの発現にも関わるという意外な成果も得られた。 また酸素誘発網膜症モデルにおける網膜の病的血管新生や内膜障害に伴って起きる内膜肥厚においてもGirdinの発現とAktによるリン酸化が重要であることを明らかにした。特に内膜肥厚モデルでは血管平滑筋細胞の増殖と遊走能にGirdinが関わっていることを初めて証明した。 以上のように本プロジェクトは当初の予定どおり、ほぼ順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は最近明らかになったAkt以外のGirdinのリン酸化部位に注目し、その生理的意義および病態形成における役割について解析を進める予定である。特にSrcキナーゼによってリン酸化されるチロシン残基を認識する特異抗体、チロシンに変異を導入したGirdin発現ベクターおよび遺伝子改変マウスを作製し、細胞レベル、個体レベルでリン酸化の意義を明らかにしていく計画である。すでにリン酸化特異抗体は作成し、遺伝子改変マウス作製用のコンストラクトの設計を進めつつある。 リン酸化特異抗体の免疫染色における有用性が明らかになった場合はさまざまながん組織の免疫染色を行い、その発現とがんの悪性度との関係など臨床データとの関連性を検討する。
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