非均一場においてタンパク1分子の座標と状態を管理する離散的・確率論的シミュレーション(SS)の新たな手法をA-Cellへ組み込んだ。これにより、通常の生化学反応式を記述するだけでSSを実行することが可能となり、実験研究者がSSを実行できる環境を提供することに成功した。次にA-CellのJava化を行い、領域内共同研究の基盤構築を完了した。 一方、NF-κB出活性化のモデル構築とシミュレーションを行った。その結果、従来考えられていた直列型活性化モデルでは実験で観測されているIKKのリン酸化を説明できないことが明らかになった。そこでこの問題を解決する可能性としてTRAF6を中心とする複合体形成に注目し、MEKK3のユビキチン化がIKKのリン酸化に至る複合体形成の足場として準安定化状態を提供するという新たなメカニズムを導入し、シミュレーションを行った。その結果TRAF6-MEKK3Ubがそれ以降の活性化を行うための「ため池」として機能し、実験結果を説明できることを明らかにした。この結果はMEKK3がTAK1/TABに先立ちTRAF6と結合すること、またMEKK3のユビキチン化が効率的なIKKのリン酸化とそれに続くNF-κBの活性化・核移行に重要であることを示唆するものであり、平成22年度の目標である複合体形成の順番とユビキチン化の機能についてシミュレーションの立場から指摘することができた。 次に、サイトカイン刺激によって核内NF-κBが振動する実験に基づいたコンピュータシミュレーションが行われてきたが、我々はこれまでの点モデルを実際の細胞の3次元モデルへと拡張した。その結果、点モデルでは考慮できなかった空間パラメータである核/細胞質体積比(N/C比)が振動周期と減衰時定数に大きな影響を与えることを新たに見出した。
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