計画研究
H23年度は1)Java化したA-Cellの一般公開、2)転写因子NF-kB活性化の時空間モデル構築とシミュレーション、3)細胞のストレス応答で形成されるストレス顆粒(SG)のモデル化を目標に研究を行った。1)についてはH24.2に公開し、研究室ホームページ(領域ホームページからのリンクあり)からダウンロード可能になった。2)については3次元球形細胞モデルを構築し、核、核膜、細胞質にそれぞれ対応する反応式を割り付け、反応拡散シミュレーションを行った。検討した空間パラメータは核/細胞質体積比(N/C比)、タンパク質とmRNAの拡散定数、タンパク質の翻訳場所(核からの距離がパラメータ)、核膜輸送の大きさ(核膜孔の数)について調べた。その結果、すべての空間パラメータが核内NF-kB量の振動に影響を与えることが明らかとなった。N/C比はがん細胞では大きくなっていること、またがんの悪性化に伴って大きくなっていることが報告されており、がんにおける遺伝子発現の異常との関連において非常に興味深い。拡散定数は物質固有の値であるが、オルガネラの密度や分布によってその実効的な値が変化すると考えられる。細胞種あるいはがん化によるオルガネラの変化との関連において興味深い結果を得ることに成功した。3)についてはSG形成の単純化モデルを構築し、その基礎的解析を行った。モデルはストレス刺激をトリガーとしたタンパク質の自己凝集を基本にした。ストレス刺激は細胞内の至る所でランダムに発生し、タンパク質の取り合いが時空間的に生ずることで特定の場所にSGが生成、成長するとの仮定を設けた。全部で16通りの異なるメカニズムを検討し、実験事実と矛盾がなく、しかもシミュレーション結果が実験事実を一致するメカニズムを発見することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
Java化A-Cellの公開を予定通り行った。一方、核内NF-kB量の振動についてはこれまで40程度のコンピュータシミュレーションの報告があるが、いずれも実細胞の有する空間的広がりを考慮しない点モデルであった。我々の3次元球形モデルはNF-kBの時空間ダイナミクスを扱うことのできるはじめての試みであり、これによってN/C比、拡散定数、核膜輸送、タンパク質の翻訳場所といった空間的パラメータと振動の関係を調べることが可能になった。最後に、SG形成・成長のモデルはこれまで報告が無く、我々が初めて構築に成功した。モデルは実験で明らかになったメカニズムと矛盾がなく、シミュレーション結果も実験による観測結果を再現できるものである。したがって、目標1)~3)はおおむね順調に進展していると判断できる。
A-Cellはまだ領域内でのユーザーが限られている。そこで今後は、主に若手研究者を対象にA-Cellを用いたコンピューターシミュレーションの基礎の講義とモデル研究の展開を図る。NF-kBの3次元球形細胞モデルについてはモデルの性質を詳細に調べると同時に、なぜこれら空間パラメータが振動に影響するのかについて解析を行う。SG形成と成長のモデルについては、パラメータを変化させることによりモデルの性質を調べ、生物学的に意義のある予言を行う。さらに実験との比較を開始し、必要があればモデルの改良を行う。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)
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