研究領域 | 翻訳後修飾によるシグナル伝達制御の分子基盤と疾患発症におけるその破綻 |
研究課題/領域番号 |
22117008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
市川 一寿 東京大学, 医科学研究所, 特任教授 (20343626)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞シミュレーション / NF-kB / 核移行 / 振動 / ストレス顆粒 / 反応拡散 |
研究概要 |
1)核内外移行を繰り返すことにより生ずるNF-kBの振動のパーターンが、タンパク質の拡散定数、核/細胞質体積比(N/C比)、核膜輸送量などの空間パラメータにより大きく変化することを数理モデルによって見出しているが、H25年度は拡散定数が振動パターを変化させるメカニズムを明らかにした。核内NF-kBの振動継続のためには①核内NR-kB量のリセット、②そのために十分量のIkB流入が必要であること、③十分量のIkBを核へ供給するためには核から離れた細胞質にIkBを蓄えておく必要があり、この細胞質領域がIkBの「溜池」として機能する必要があること、④細胞質「溜池」にIkBを十分量蓄えるためには大きな拡散定数(特にIkBの)が必要であることを明らかにした。もし①~④が正しければIkBの拡散定数だけを大きくすれば細胞質「溜池」に十分量のIkBが蓄えられ、それが核内に流入することによりNF-kBをリセットし、振動が継続するはずである。実際シミュレーションによりこれを確認し、①~④のメカニズムの正しさを強く示唆する結果を得た。 2)次に、古典的経路でのRelAに比べて研究の遅れている非古典的経路のRelB活性制御のメカニズムについて複数のモデルを検討し、実験結果との整合性を考慮してモデルを絞り込んだ。 3)ストレス顆粒(SG)形成のモデルに関して、stochastic simulation(SS)のプログラムを拡張し、微小管上のSG確率的輸送を扱えるようにした。シミュレーションの結果、SG形成個数、time courseにおいて実験と非常によく一致する結果を得、SG形成のメカニズムを明らかにした。 4)領域の若手研究者育成活動として若手ワークチョップにおいて細胞シミュレーションの具体例を取り上げながら講習を行い、かつホームページ上に例題を載せ公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①拡散係数がなぜNF-kBの振動に影響を与えるかの詳細なメカニズムを明らかにした。本来拡散定数は物質固有の値であるが、細胞内においてはオルガネラの分布、密度、大きさ(面積)によって実効的な値が変化すると考えられる。拡散定数は細胞生物学においては大きく扱われてこなかったが、一方で細胞分裂のときはもちろん、hypoxiaやウイルス感染によってオルガネラ分布が大きく変化することが報告されている。従ってオルガネラの変化による実行拡散定数の変化は今後の細胞生物学において重要になると考えられ、本研究によってその先鞭をつけた。 ②SG形成のSSを世界に先駆けて実現し、そのメカニズムを明らかにした。 ③細胞生物学において数理的研究をできる若手の育成を行った。 以上のように、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1)実際の細胞の連続電顕写真からオルガネラを抽出してコンピュータ上に再構成し(TiCS:True intraCellular Space)、TiCSにおけるNF-kB制御のメカニズムをさらに追及する。TiCSシミュレーションは従来方法で行うと超大規模シミュレーションとなるため、世界最高速のスパコンでも実用的シミュレーションが困難であると予想される。そこで計算量を数ケタ低減するための方策を編み出す。 2)NF-kB制御の古典的経路のメカニズムを明らかにする。 3)SG形成制御の予測を行い、実験で検証する。
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