研究領域 | 多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
22118002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北村 俊雄 東京大学, 医科学研究所, 教授 (20282527)
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研究分担者 |
阪上 朝子 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (90462689)
山本 雅之 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50166823) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 核酸 / 発現制御 / 発生・分化 / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
<マウスMDSモデル>TET2、EZH2、ASXL1の変異は多くの造血器腫瘍で変異が同定された。我々はこれらの変異を有する遺伝子を導入した骨髄細胞を照射マウスに移植することによって骨髄異形成症候群(MDS)様の病態を誘導することに成功した。なかでも変異型ASXL1はミエロイド系細胞の異型性、汎血球減少、時に急性白血病に進展する典型的なMDSを発症した。MDS発症の分子機構を解析し、変異型ASXL1がEZH2を阻害することによりヒストンH3K27のトリメチル化が低下し、HoxA9の発現が脱抑制することが明らかになった。また、miR125aの発現も脱抑制して上昇した。miR125aはClec5a発現を抑制することによりミエロイド系細胞の分化を抑制した。実際のMDS患者においてもHoxA9の発現は上昇している症例が多く、Clec5aの発現は低下している症例が多いことが判明した。 <転写抑制因子Hes1と細胞分化・増殖>Hes1を発現して分化を抑制したマウス骨髄細胞はIL-3依存性の前駆細胞である。ここにC/EBPaやPU1を過剰発現することによって好中球あるいは単球への分化を誘導することを試みたが、分化は誘導できるものの死細胞が多く生化学的解析はできなかった。そこでC/EBPa-ERおよびPU1-ERを導入してタモキシフェンで転写因子を活性化し一律に細胞分化を誘導することを試みたが、融合遺伝子の発現が低く分化を誘導することができなかった。 <G0期の細胞を染色するG0マーカーの開発と解析>p27の変異株を蛍光色素Venusとつなぐことによって細胞がG0からG1へ移行する際に分解されるプローブを作成した。このプローブはG0と早期G1期を染色することが判明した。このプローブを利用してG0期細胞とG1期の発現解析を行ない、G0期細胞は静止期細胞の発現シグネーチュアを示す事を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写抑制因子Hes1と細胞分化・増殖のプロジェクトにおいてはミエロイド系細胞への分化が均一に見られないことによって研究が停滞している。しかしながら、エピジェネティクスとG0期の細胞を染色するG0マーカーの開発と解析のプロジェクトは概ね順調に進み、論文投稿中である。また、マウスMDSモデルのプロジェクトはMDSモデルが樹立できたことに加えて、その発症メカニズムの一端を明らかにすることができ、論文投稿中である。このプロジェクトにおいては変異型ASXL1がPRC2を抑制することによりHoxA9とmiR125aの発現を脱抑制、さらにmiR125aがミエロイド細胞分化に重要な役割を果たすClec5a/MDL1の発現を抑制するという詳細な分子機構を明らかにすることができ、当初の計画以上に進展している。以上、一部に遅れは認められるものの、全体としては順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
転写抑制因子Hes1については最近ユビキチン化することを見いだしたので、ユビキチン化責任酵素を同定し、Hes1の機能とユビキチン化の関係を調べる。G0マーカーについては樹立したトランスジェニックマウスでは造血系細胞での発現が確認できなかった。そこで、造血系に実績があるRosa26ノックインを利用してG0マーカーのトランスジェニックマウスをもう一度樹立する。変異型ASXl1を利用したマウスMDSモデルについては、Rosa26ノックインを利用したトランスジェニックマウスを樹立する。このトランスジェニックマウスが樹立できればDNAメチル化阻害剤によるMDSモデルの治療モデルを樹立する。治療効果が認められれば、網羅的発現解析やDNAメチル化解析を利用して標的遺伝子を同定する。
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