研究領域 | 多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
22118003
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
中西 真 名古屋市立大学, 大学院・医学研究科, 教授 (40217774)
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研究分担者 |
横山 明彦 京都大学, 医学研究科, 准教授 (10506710)
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キーワード | ゲノム / シグナル伝達 / 発現抑制 / 発生・分化 |
研究概要 |
本研究では、終末細胞分化における恒久的増殖停止が如何なるエピジェネティック修飾により制御されているかを明らかにする目的で、DNA損傷に応答した早期細胞老化をモデルシステムとして解析を行った。その結果、DNA損傷に応答してE2F転写因子標的プロモーター領域に、Rb様ポケットタンパク質群をプラットフォームとして、PP1ガンマーおよびHDAC3分子が局在化することが分かった。これらの酵素はE2F標的プロモーター領域のヒストンH3分子のT11の脱リン酸化、およびK9の脱アセチル化を協調して制御することで、恒久的にE2F標的遺伝子である細胞周期進行制御、あるいはDNA複製制御に関わる遺伝子群の転写を抑制していることが示唆された。一方、Chk1分子が様々な遺伝子転写領域のヒストンH3分子のT11のリン酸化を促進することで、細胞周期進行を制御しているという知見から、Chk1欠失細胞に見られる恒久的細胞増殖停止と、DNAメチル化およびH3分子のT11のリン酸化との間に深い関連があると考えられるため、Chk1欠失細胞でのDNAメチル化変動についてゲノムワイドな解析を行った。その結果、予想とは全く異なりChk1欠失細胞ではプロモーター領域のDNAメチル化はほとんど認められず、むしろ多くのプロモーター領域が脱メチル化していることが分かった。興味深いことに、これらの脱メチル化されたプロモーターは、ガン抑制遺伝子、あるいはガン遺伝子を制御するものが比較的多く認められた。これらの知見は、Chk1によるT11のリン酸化、あるいはChk1の標的下流分子が何らかの未同定の経路により、発ガンに関連する遺伝子群のプロモーター領域のDNAメチル化程度を制御している可能性を示唆していると考えられた(中西)。また分担研究者の横山は、造血細胞が幹細胞性を失う過程におけるエピジェネティックな変化を調べるために、分化誘導可能な細胞株であるML-2細胞のゲノムワイドなChIP-seq解析の系を確立した(横山)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
老化細胞に見られるエピジェネティック制御による恒久的細胞増殖停止機構については、当初の計画度通り進展しており、新たな知見が得られている。また研究計画にあるMPP8ノックアウトマウスについても作成が完了しており、現在その表現型を解析中であり順調に推移している。一方、ヒストンH2Aバリアント、およびその修飾抗体の作成については、特異性および感度の高い抗体が数種類程度しか得られていない(中西)。分担研究者の横山は、分化誘導可能な細胞株でのChIP-seq解析の系を樹立することに成功しており、研究は順調に進んでいるといえる(横山)。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目的である血液細胞系列におけるエピジェネティック制御と、分化制御についての新たな知見を得るために、細胞周期と細胞分化を直接結びつけると思われる、DNA維持メチル化機構の解析を開始した。この機構はDNA複製期において、如何なる分子機構でエピジェネティック情報が遺伝するかを直接明らかにするもので、分化過程において親細胞のエピジェネティック情報が娘細胞で如何なる機構で変換されるのかを理解するのに重要と考えている。とりわけこの機構は老化細胞等の終末分化細胞における恒久的増殖停止機構を理解する上でも鍵になる知見を与えるものと期待している(中西)。分担研究者の横山は、今後は分化誘導前後にChIP-seq解析を行うことで幹細胞性が失われるメカニズムを解析する。ML-2細胞が単球系に分化した場合、増殖を止め核内構造も変化する事から、これまでの実験条件ではうまくいかない可能性が考えられる。その場合は、分化誘導後のChIP-seq解析の条件検討をする事で対処する(横山)。
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