研究領域 | 多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
22118003
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
中西 真 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40217774)
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研究分担者 |
横山 明彦 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10506710)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ゲノム / シグナル伝達 / 発現抑制 / 発生・分化 |
研究実績の概要 |
DNAメチル化は遺伝子発現や、染色体構造を制御するエピジェネティック修飾で、細胞の分化、発生に重要な役割を果たしている。細胞増殖に伴うDNAメチル化の複製は、DNAメチル化酵素Dnmt1により触媒されるDNA維持メチル化機構により制御されている。メチル化CpGは半保存的に複製されないため、DNA複製後にヘミメチル化DNAがフルメチル化DNAに変換されなければならない。近年、ヘミメチル化DNA結合タンパク質であるUhrf1がDNA複製部位へのDnmt1の局在化に重要な役割を果たしていることが明らかになったが、いかなる分子機構によりDNA複製とDNA維持メチル化機構がカップリングするかについてはほとんど理解されていない。研究代表者の中西はUhrf1がDNA複製に依存してヒストンH2リジン23をユビキチン化すること、このヒストンユビキチン化がDnmt1をDNA複製部位へ局在化させるのに必須の役割を果たしていることを見出した。従って、Uhrf1分子のユビキチン化活性を持たない変異体を発現した細胞では、DNA維持メチル化機構に大きな不備が生じ、細胞のDNAメチル化程度は著明に減少した。(中西) 研究分担者の横山は、ヒストンメチル化酵素であるMLLがエピジェネティックマーカーである非メチル化CpGやH3K36のメチル化を認識して標的プロモーターを識別し、CBPなどのヒストンアセチル化酵素をリクルートする事で転写を再活性化する事を見いだした。さらに、ChIP-seq法を用いてそれらのエピジェネティックマーカーやその修飾酵素がゲノムワイドにどのように分布しているかを調べる実験系を構築した。(横山)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNA維持メチル化機構は、発生、細胞分化等の細胞運命制御に関わる細胞機能の最も重要な分子機構の1つであるが、その詳細な機構についてはほとんど理解されていない。中西らによる本研究は、DNA維持メチル化機構において、どのような分子メカニズムによりヘミメチル化DNAをフルメチル化DNAに変換するDNAメチル化酵素Dnmt1をDNA複製部位にリクルートするのかを明らかにしたもので、その意義は非常に深い。これらの知見は今後、細胞分化や発生、またその異常である様々な疾患群の解明につながることが強く期待されることから、研究は非常に順調に推移し、その成果は十分目標を達成していると考えている。 MLLが造血幹細胞の幹細胞性を維持する仕組みを探る上で、MLL依存性の転写活性化が重要である事がわかっていたが、その分子メカニズムは不明な点が多かった。研究分担者の横山は詳細な構造機能解析により、このMLL依存性の転写のメカニズムを明らかにしており、研究は順調に進んでいる。(横山)
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今後の研究の推進方策 |
中西は昨年度までの当該研究において明らかにしたDNA維持メチル化機構に関わるヒストンH3リジン23のユビキチン化の役割について詳細に解析し、細胞分化、発生の過程でどの様に制御され、また具体的に血球細胞分化系を用いて細胞分化の素過程においてどのような機能を持っているかを明らかにする予定である。このために、領域内の北村、河本、指田らが持つ血球分化誘導系技術を導入する。またヒストンH3リジン23の特異抗体を作成し、白血病等の血球系腫瘍、あるいは分化異常症の発症における役割について解析を行う。このために、領域内の白血病等疾患関連研究を推進している研究者と共同研究体制を構築する。 研究分担者の横山は、ML-2細胞の分化に伴うエピジェネティック変化を調べるためにChIP-seq法を用いた実験系を確立しており、領域内の稲葉らと共に分化に伴うダイナミックな変化を調べていく。また、幹細胞性の維持にはMLLとCBPの相互作用が鍵となる事が明らかになってきたため、今後は両者のゲノム上での局在を調べることができる実験系の構築を進めていく。この目的に合う細胞株が現在見つかっていないが、出来るだけ多くの細胞株を調べる事で対応していく。(横山)
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