研究領域 | 多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
22118004
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
河本 宏 独立行政法人理化学研究所, 免疫発生研究チーム, チームリーダー (00343228)
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研究分担者 |
岩間 厚志 千葉大学, 大学院・医学研究院, 教授 (70244126)
谷内 一郎 独立行政法人理化学研究所, 免疫転写制御研究グループ, グループディレクター (20284573)
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キーワード | 系列決定 / 分化停止 / 自己複製 / チェックポイント / 転写因子ネットワーク / T細胞分化 |
研究概要 |
この研究計画の目標は、造血幹細胞からT前駆細胞が生成するまでの過程の分子機構を明らかにすることである。アプローチとして、前駆細胞の分化停止や分化再開を誘導する系を用いることにより、細胞分化の節目となるチェックポイントを明らかにし、さらにそのチェックポイントのステップのキーとなる外的因子および内的因子を明らかにしようとする戦略をとる。 本年度は、T細胞系列への「特化(specification)」の過程分化停止/分化再開培養系で再現することシステムの樹立を行った。T細胞系列特化とは、ミエロイド-T-Bという分化能を持つ多能前駆細胞が、B細胞への分化能を失いミエロイド-T前駆細胞になるステップのことである。アプローチを以下に記す。EBF1欠損マウスの造血幹細胞をB細胞分化誘導系で培養すると多能前駆細胞にあたる段階で分化が停止し、自己複製サイクルに入る。本年度は、この分化停止多能前駆細胞を、T細胞分化誘導環境に移すという実験を行った。これらの細胞は同期した形で分化し、4日後にはT細胞系列決定が起こるDN2という段階に達した。すなわち、多能前駆細胞が胸腺に移住してB細胞系への分化能を失うステップを、同期培養系で再現できたと考えられる。培養3日目までのtime course検体に詳細な解析を加えることで、T細胞特化過程の分子機構の解明に迫れると考えている。 研究分担者の岩間、谷内とは、上記の培養系を用いて、それぞれエピジェネティクスと転写因子ネットワークの面から、共同で解析法についての検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度開発した同期的分化誘導培養系は、系列決定の遷移相で起こるイベントの解析に極めて有用であると考えられる。実際に培養開始後数時間ごとのtime course検体を調べたところ、同期した遺伝子発現の推移が観察された。実際にこのような培養系が樹立できたことは大きな進捗であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今回開発した培養系で得られたtime course検体を、理研OSCが推進中のFANTOM5に寄託して、CAGE解析をする。CAGE解析とは、次世代型シークエンサーを用いて遺伝子発現を網羅的かつ極めて定量的に行う方法である。また、解析データにbioinformatics的な解析を加えることにより、転写因子ネットワークの予測を行う。これはFANTOM5のサポートで進める。予測されたネットワークに関しては、同じ培養系において特定の遺伝子の発現をon-off制御するなどの方法で上流-下流関係を検証する作業を進める。 同時に、系列決定の進行に伴うエピジェネティックな状態の推移についての解析を進める。この方向については、例えばpolycomb複合体の結合部位、DNAメチレーションなど、個別に解析する必要がある。今後、統合的な理解を得るためには、遺伝子発現のデータとエピゲノム状態のデータをリンクさせるbioinformatics的なメソッドを応用して行く必要がある。
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