計画研究
本研究は、多能前駆細胞からT前駆細胞への分化能限定過程すなわち、M-T-B前駆細胞から順次M-T前駆細胞、T前駆細胞になるという段階的分化能喪失過程の分子機構を解明する事を目標としている。主に用いる方法は、試験管内で特定の分化段階で任意に分化を停止させたり再開させたりする手法である。具体的には、転写因子E2AあるいはEBF1の機能阻害と、ノッチシグナルとIL-7シグナルの持続的付与により、それぞれM-T-BおよびM-T段階で分化を強制停止させる方法を用いた。25年度の研究では、これらの方法を用いて得られた分化再開細胞のゲノムワイドな遺伝子発現解析を経時的なデータにバイオインフォマティクス解析を加え、M-T-BからM-T前駆細胞への誘導に働く転写因子の遺伝子発現ネットワーク構造を描出した(未発表)。また、24年度までにはT前駆細胞においてポリコムを欠失させるとT細胞の分化が著明に障害される事と、T系列からB系列へ分化転換することを見いだしていたが、25年度にはさらにPAX5を欠失させるとT細胞の分化障害がなくなることを見いだした。すなわち、ポリコムがPAX5を抑制することがT細胞の系列の維持に必須であることが示された(未発表)。このように、この現象の分子機構に切り込むことができた。
1: 当初の計画以上に進展している
未発表の成果のうち、経時的サンプルから転写ネットワークを描出するアプローチは極めて先進的である。またポリコムの欠失により系列間の運命転換が起こるという発見は、これまでにそういう報告例がなく、重大な発見と考えている。さらに25年度にはPAX5がその責任遺伝子であることも見いだし、この現象の分子機構に切り込むことができた。従って、当初の計画以上に進んでいると考えている。
26年度以後は描出された転写因子ネットワークモデルの検証作業にとりかかる。具体的には、モデルの中で予測されたキー転写因子を強制発現させる/抑制するなどの操作を加え、その転写因子が標的の転写因子を実際に制御しているかどうかを検証する。この作業により、分化決定の主因子をさらに絞り込み、系列決定状態を規定しているコアの転写サーキットをあぶりだす作業を行なう。また、経時的細胞サンプルのヒストンの修飾状況、DNAメチレーションの状態などをゲノムワイドに解析し、転写ネットワークの変遷との関連を調べる。これらの解析により、各分化ステージの分化能を保障する転写ネットワークおよびエピジェネティック制御機構を明らかにする。また、経時的サンプルの解析から、TCR鎖遺伝子の転写が分化誘導開始後非常に早い時期に始まっていることも見いだした。T細胞特異的な転写因子であるGata3, Tcf1, Bcl11bの発現が上昇するよりも早い時期に始まっており、T細胞系列へ向けた分化の最初期のイベントと考えられる。今後はこの転写調節メカニズムも調べようと考えている。一方でポリコム欠失によるT細胞の分化障害については、25年度にはPAX5が責任遺伝子であることを見いだしたが、26年度はPAX5がどのように(すなわちどの遺伝子の発現制御を介して)T細胞分化障害を引き起こしているのかを解明する研究を始める。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 7件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 110 ページ: 13410-13415
10.1073/pnas.1220710110
巻: 111 ページ: 3805-3810
10.1073/pnas.1320265111