研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
22119003
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山谷 知行 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30144778)
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研究分担者 |
草野 都 独立行政法人理化学研究所, 植物科学研究センター, メタボローム機能研究グループ研究員 (60415148)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イネ / 窒素飢餓 / メタボローム / 逆遺伝学 / 生存戦略 / 環境突破 / 窒素同化代謝 |
研究実績の概要 |
1)外界のNH4+の過不足を検知する機構: イネ根においてNH4+情報の伝達に関わる有力な候補遺伝子として着目したOsACTPK1は、NH4+供給充足下のイネ幼植物根で顕著に発現し、翻訳産物はサイトゾルと核に蓄積することが示唆された。レトロトランスポゾンTos17挿入による OsACTPK1破壊イネ系統では、 (1)根の伸長抑制と地上部の成長促進、(2) 根のNH4+蓄積と高親和性NH4+吸収の促進、 (3) 全Nや遊離アミノ酸含量、(4) 根のGS1やNADH-GOGATタンパク質含量の増加が認められ、またKやMn含量の減少が観察された。また、イネ幼植物根では、ACTPK1がNH4+利用の負の制御に関わる示唆を得た。2)NH4+を同化・再利用する機構: イネのNH4+同化は、3種のGS1(GS1;1-1;3)と、共役する2種のNADH-GOGATが触媒する。これらの遺伝子がそれぞれ破壊された変異体を獲得し、生理機能の解明を試みた。根におけるNH4+初期同化にはGS1;2とNADH-GOGAT1が、老化葉身からの転流にはGS1;1とNADH-GOGAT2が、またシンク器官での再利用にはNADH-GOGAT1が関わることがほぼ判明した。穎果特異的に発現するGS1;3の遺伝子破壊変異体では、発芽の遅延が認められた。登熟過程での表現型は、現在解析中である。3)炭素や他の代謝バランスを図る機構: GS1;1遺伝子破壊系統を用いて、メタボローム解析を行った結果、地上部・地下部ともに炭素代謝と窒素代謝バランスが大きく崩れ、代謝ネットワークの恒常性が乱れていることが判明した。GS1;2遺伝子破壊系統では、地下部で変動する転写物量はGS1;1変異体に比較して少なく、炭素・窒素バランスの崩壊は検出されなかった。地下部では、GS1;1とGS1;2の機能は独立的であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災からの研究環境の復旧が2011年初冬までかかり、また震災で失われた冷凍庫保存の生物試料も多々あったが、2012年度は徐々に研究の遅れを取り戻すことができた。 1)外界のアンモニウムイオン過不足を検知する機構: ACTPK1が過剰のアンモニウムイオン吸収・同化を抑制する因子であることがほぼ判明したが、過不足を検知する機構には直接結びつかない可能性もある。今後、窒素環境検知・窒素代謝制御の仕組みの詳細を解明するとともに、ACTPK1の結果の公表に努力したい。 2)アンモニウムイオンを同化・再利用する機構: 逆遺伝学的手法を用い、GS1;2の機能解析に関する論文を公表した(2013年印刷中)。GS/GOGATの中では、種子特異的に機能するGS1;3が唯一残されている状況である。GS1;2やNADH-GOGAT1の変異体は、窒素欠乏を模倣できる良い材料であり、窒素飢餓環境に対する生存戦略を明らかにできるツールが取得できたと考えている。 3)炭素や他の代謝バランスを図る機構: GS1;1変異体を用いたメタボローム解析結果は既に公表できたが、引き続きGS1;2変異体を用いたメタボローム解析やシステムズバイオロジーの手法を用いて研究を進めており、窒素代謝の重要性を示す予定である。 4)現在までは、モデリングとの連携はできていないが、2013年度は窒素転流・種子の登熟に絞ったモデリングを行う予定である。 以上の成果から、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1) 外界のアンモニウムイオンの過不足を検知する機構: ACTPK1を介した窒素環境検知・窒素代謝制御の仕組みを解明する。 2)アンモニウムイオンを同化・再利用する機構: 種子特異的発現を示すGS1;3の機能解明を目指すとともに、GS1;2の結果の公表を行う。 3)炭素や他の代謝バランスを図る機構: GS1;1以外の遺伝子破壊変異体を用いて、メタボローム・システムズバイオリジー解析を進める。 4)窒素転流のモデリング: 穎果のNの約80%は老化器官からの転流に由来することから、葉位別のN含量や重窒素フラックス解析等により、穂へ蓄積するNのモデリングを行う。
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