研究概要 |
本研究のスクリーニングによって単離した気孔開度変異体の解析により、scs1-1の原因遺伝子を明らかにし、これまでフロリゲンとして知られていたFTの多様な機能を証明する結果を得た(Kinoshita et al., Curr. Biol. 2011)。この成果は、多くのメディア(読売新聞、中日新聞、NHKニュースなど)で取り上げられ、一般への紹介が行われた。また、r1t1の解析を行い、アブシジン酸(ABA)の受容体として報告されていたCHLHは、ABAシグナル伝達には影響を与えるものの、ABA受容体としては機能していないことを証明し、これまで混沌としていたCHLHのABAシグナル伝達における機能を明確に示した(Tsuzuki et al.,J. Plant Res. 2011)。今後は、これら遺伝子の気孔開閉における機能解析やこれら遺伝子のプロモーターを利用した人為的な気孔開度制御にも取り組む予定である。 また、免疫組織化学染色により、孔辺細胞の細胞膜H^+-ATPaseの活性化(リン酸化)状態を検出する方法を確立し、青色光によるH^+-ATPaseの活性化は、気孔を閉じさせるABAによって、生理的濃度範囲で完全に阻害されることを明らかにした。この結果は、気孔開口と気孔閉鎖のシグナル伝達のクロストークを明確に示すものであり、掲載誌の表紙を飾った(Hayashi et al.,Plant Cell Physiol.2011)。 さらに、細胞膜H^+-ATPaseの進化的起源について、苔類ゼニゴケを用いた解析を行い、維管束植物の持つH^+-ATPaseは、植物が陸上に進化する過程で獲得され、リン酸化による活性制御が始まったことを明らかにした。また、ゼニゴケでは、光合成に依存してH^+-ATPaseが活性化されることを見出し、この反応がH^+-ATPaseの進化上初めての制御機構であることを示した。これらの結果は、国際誌Plant Physiologyに掲載予定である。
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