研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
22119005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木下 俊則 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 教授 (50271101)
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キーワード | 気孔孔辺細胞 / 青色光 / 乾燥ストレス / アブシジン酸 / 細胞膜プロトンポンプ / フォトトロピン / シロイヌナズナ / ゼニゴケ |
研究概要 |
本研究のスクリーニングによって単離した気孔開度変異体の解析により、scsl-1の原因遺伝子を明らかにし、これまでフロリゲンとして知られていたFTの多様な機能を証明する結果を得た(Kinoshit et al., Curr. Biol. 2011)。この成果は、多くのメディア(読売新聞、中日新聞、NHKニュースなど)で取り上げられ、一般への紹介が行われた。また、rlt1の解析を行い、アブシジン酸(ABA)の受容体として報告されていたCHLHは、ABAシグナル伝達には影響を与えるものの、ABA受容体としては機能していないことを証明し、これまで混沌としていたCHLHのABAシグナル伝達における機能を明確に示した(Tsuzuki et al., J. PlantRes. 2011)。 また、免疫組織化学染色により、孔辺細胞の細胞膜H^+-ATPaseの活性化(リン酸化)状態を検出する方法を確立し、青色光によるH^+-ATPaseの活性化は、気孔を閉じさせるABAによって、生理的濃度範囲で完全に阻害されることを明らかにした。この結果は、気孔開口と気孔閉鎖のシグナル伝達のクロストークを明確に示すものであり、掲載誌の表紙を飾った(Hayashi et al, PlantCell Physiol. 2011)。 さらに、細胞膜H^+-ATPaseの進化的起源について、苔類ゼニゴケを用いた解析を行い、維管束植物の持つH^+-ATPaseは、植物が陸上に進化する過程で獲得され、リン酸化による活性制御が始まったことを明らかにした。また、ゼニゴケでは、光合成に依存してH^+-ATPaseが活性化されることを見出し、この反応がH^+-ATPaseの進化上初めての制御機構であることを示した。これらの結果は、国際誌Plant Physiologyに掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フロリゲンFTの多様な機能の一端を発見し、植物の栄養成長から生殖成長への相転換におけるFTの役割について、既存の概念の転換を促す成果が得られたこと。さらに、CHLHのABAシグナル伝達における役割の解明、免疫組織化学染色法の確立、細胞膜H^+-ATPaseの進化的起源の解明など多くの学術上重要な成果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
気孔開度変異体の解析において、多くの新奇因子がわかってきており、これを重点的に解明していく。特に、今年度の研究で明らかとなったFTの多様な機能について研究を進めることによって、多くの重要な知見が得られると考えられる。また、気孔開度変異体の研究で明らかとなった知見を利用し、人為的に気孔開度を調節した植物体の作出にも取り組み、環境変動における気孔の役割を明確にしていきたい。
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