研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
22119005
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木下 俊則 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所(理), 教授 (50271101)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 気孔孔辺細胞 / 青色光 / オーキシン / アブシジン酸 / 細胞膜プロトンポンプ / フォトトロピン / シロイヌナズナ |
研究概要 |
これまでの気孔開度変異体の解析の結果、フロリゲン・花成ホルモンとして知られているFLOWERING LOCUS T (FT)が気孔孔辺細胞にも発現しており、気孔開口の調節因子として機能することが明らかとなった。そこで、光周性花成誘導経路においてFTの最も近いホモログであるTWIN SISTER OF FT (TSF)、光周性経路の光受容体クリプトクロム、FTの発現を直接制御することが知られている上流因子CONSTANS (CO)、さらに COの発現制御を行うことが知られている概日時計因子GIGANTEA (GI)の気孔開度調節への関与について、これら因子の突然変異体や形質転換植物を用いて詳細な解析を行い、TSF はFTと同様に気孔開度制御に関与していること、さらに、クリプトクロム、GI、COは、孔辺細胞におけるFTやTSFの発現量を調節することによって気孔開度制御に関わっていることを明らかにした。 さらに、気孔開度を人為的に制御した植物体の作出と表現型の解析を進め、気孔開口の駆動力を与えている細胞膜プロトンポンプの発現量をシロイヌナズナの孔辺細胞のみで増やすことで気孔開口、光合成活性や生産量が増加することを見出し、気孔開度が光合成と生産量の制限要因となることを初めて実証した。一方、アブシジン酸(ABA)による気孔閉鎖に関与するMg-キラターゼ Hサブユニット(CHLH)をシロイヌナズナの孔辺細胞に過剰発現する形質転換体を作出し、表現型の解析を行った結果、この植物体では、野生株では枯死してしまう水ストレス条件下においてもCHLH過剰発現株は生存することが可能であることが明らかとなった。本結果は、気孔開度を調節することで実際に乾燥に強い植物体を作出することができることを実証するもので、今後、実用的な植物への展開が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光周性経路による気孔開度調節という新たな調節機構を発見し、植物の栄養成長から生殖成長への相転換における気孔の役割について 、既存の概念の転換を促す成果が得られたこと。さらに、クロロフィル合成酵素CHLI1や植物ホルモン・オーキシンの気孔開度調節へ の関与、免疫組織化学染色法による遺伝学的スクリーニング法の確立、細胞膜H+-ATPaseの進化的起源の解明など多くの学術上重要な 成果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
気孔開度変異体の解析において、多くの新奇因子がわかってきており、これらの機能解析を重点的に進めていく。また、気孔開度変異体の研究で明らかとなった知見を利用し、人為的に気孔開度を調節した植物体の作出にも取り組み、環境変動における気孔の役割を明 確にしていきたい。さらに、本研究により新たに明らかとなった陸上植物に共通して観察される光合成による細胞膜H+-ATPaseの活性 調節機構とその生理的意義の解明に向けて、従来の生理・生化学的手法に加え、遺伝学的スクリーニングなどの手法を取り入れて進めていきたい。
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