研究概要 |
様々な環境条件下での植物の持続的成長には,環境変動に対して細胞内恒常性を厳密に維持する機構が不可欠であり,細胞内環境を機敏に感知し,それを即座に細胞の機能調節に反映させる分子メカニズムが必要である。シスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)は,植物においてメチオニン生合成の鍵段階を触媒する。メチオニンの生合成はCGSをコードするCGS1遺伝子の翻訳段階で,メチオニンの代謝産物であるS-アデノシルメチオニン(SAM)に応答した翻訳停止と共役したCGS1 mRNAの分解によってフィードバック制御される。CGS1 mRNAのSAMに応答した翻訳停止機構の解析を行った。リボソーム出口トンネル内の新生ペプチドのコンフォメーション変化を調べるため,ペジレーション法を用いた。翻訳停止位置から様々な距離にシステイン残基を1つだけ持つように設計したCGS1 mRNAを用いて試験管内翻訳を行い,翻訳停止したリボソーム・新生ペプチド・mRNA複合体を回収してペジレーション解析を行った。その結果,SAM存在下では出口トンネル内のCGS1新生ペプチドがSAM非存在下と比べてよりコンパクトな構造を取ることが明らかになった。一方,MTO1領域内にアミノ酸置換を持ちSAMに応答したCGS1の発現制御が起こらないmtol変異を導入したmRNAでは,SAMの有無にかかわらず,出口トンネル内のCGS1新生ペプチドがコンパクトな構造を取ることはなかった。これらの結果より,SAMに応答した翻訳停止と出口トンネル内のCGS1新生ペプチドのコンフォメーション変化が密接な関係にあることが示された。低分子化合物の有無に応答して出口トンネル内の新生ペプチドがコンフォメーション変化を起こすことを示した最初の例である。
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