研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
22119006
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内藤 哲 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20164105)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | mRNA分解 / リボソーム / 翻訳停止 / 試験管内翻訳系 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
様々な環境条件下での植物の持続的成長には,環境変動に対して細胞内恒常性を厳密に維持する機構が不可欠である。シスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)は,植物においてメチオニン生合成の鍵段階を触媒する。メチオニンの生合成はCGSをコードするCGS1遺伝子の翻訳段階で,メチオニンの代謝産物であるS-アデノシルメチオニン(AdoMet)に応答したSer-94コドンでの翻訳停止と共役したCGS1 mRNAの分解によってフィードバック制御される。 AdoMetに応答して翻訳停止したリボソームの後ろに少なくとも2つのリボソームが追突することを見いだしている。ゲル電気泳動におけるペプチジル-tRNAの移動度は,ペプチド部分が同一であっても,tRNA分子種の違いにより変化することがある。リボソームの停止位置と期待される位置の近傍のコドンを同義置換することにより,追突したリボソームの停止位置を同定した。その結果,追突したリボソームは,非常にタイトにスタックしていることが明らかになった。AdoMetに応答した翻訳停止においてリボソームは,転座の段階で停止している。昨年度に引き続き,ピュロマイシンによるペプチジル-tRNAの離脱反応(ピュロマイシン反応)の詳細な解析を行った。AdoMet存在下で翻訳させ,Ser-94で翻訳停止したリボソームの多くは,ピュロマイシン反応が非常に遅いが,Ser-94nonstop RNAをAdoMet存在下で翻訳させた場合でもピュロマイシン反応が非常に遅いことが示され,Ser-94nonstop RNAにおいてもAdoMet存在下では全長mRNAと同様の翻訳停止状態にあると考えられた。一方,Ser-94nonstop RNAをAdoMet非存在下で翻訳させた場合のピュロマイシン反応は早く,リボソームは転座後の状態にあると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同義コドン置換による翻訳停止位置の同定,およびピュロマイシン反応によるリボソームの翻訳停止状態(A部位の状態)の解析は,いずれも本研究独自の方法論により,本研究の研究目的であるAdoMetに応答した翻訳停止が如何にしてもたらされるかを解明する上で重要な知見である。特に,AdoMetに応答したCGS1 mRNAの翻訳停止位置であるSer-94でトランケートし,終止コドンを持たないnonstop RNAにおいても,AdoMet存在下で翻訳すると,全長CGS1 mRNAをAdoMet存在下で翻訳した時と同様にピュロマイシン反応が遅い,即ち,A部位がフリーではない,という発見は今後の研究に資するところが多いいと考える。これらの成果は現在,投稿論文作成中である。 また,領域内共同研究による他の応答反応に敷衍した研究を推進する面では,低温応答におけるmRNA安定性制御についての研究を論文発表した。
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今後の研究の推進方策 |
リボソームにおける翻訳伸長の反応は,大きく分けて,(1)アミノアシル-tRNAがA部位に入ってくるデコーディング,(2)A部位のアミノアシル-tRNAとP部位のペプチジル-tRNAの間のペプチド転移反応,(3)リボソームが1コドン進む転座,の3段階からなる。これまでに報告されている翻訳伸長の停止では,いずれもリボソームがペプチド転移反応の段階で停止しているが,AdoMetに応答したCGS1 mRNAの翻訳停止では,リボソームが転座前の段階で停止しており,A部位に翻訳中間産物であるペプチジル-tRNAが位置するというユニークな特徴を持つ。これまでに本研究において,ポリエチレンマレイミドとシステインとの反応を利用したリボソーム出口トンネル内においてMTO1領域を含むCGS1新生ペプチドがAdoMetに応答して収縮したコンフォメーションを取ることを報告したが,今回,ピュロマイシン反応の解析により,Ser-94nonstop RNAにおいてもAdoMet存在下では全長mRNAと同様の翻訳停止状態にあると考えられる結果を得ることができた。両者を組み合わせた解析を推進することで,AdoMetの検知から翻訳停止に至る素過程に迫る解析が可能となった。
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