研究概要 |
【研究目的】 本研究ではイネ品種間の多様性や栽培種と近縁野生種との多様性を利用することにより、これまで変異体では検出・同定が困難であった水ストレス回避を制御する遺伝子群を単離し、分子生物学的・生化学的手法を用いてその分子メカニズムを解明すると共に、それぞれの遺伝子の相互作用を明らかにする。 【研究成果】 1)浮きイネの深水依存的な節間伸長を制御するSK1,SK2遺伝子の分子メカニズムの解明 SK1,SK2遺伝子のプロモーターにGUSを連結したコンストラクトを導入した植物を用いてSK1,SK2遺伝子の発現を解析したところ、SK1及びSK2は節および葉鞘の基部で発現していることが明らかになった。またジベレリン(GA)やブラシノステロイド(BR)といった節間伸長に関与する植物ホルモンの合成変異体や情報伝達変異体との交雑系統の解析から、浮きイネの節間伸長にはGAやBRが必要であることが明らかになった。 2)新規浮きイネQTLの検出 これまでの研究で浮きイネの深水依存的な節間伸長を司るQTLをイネ第1,3,12染色体の3カ所見いだし、交配と分子間カーカー選抜を用いて非浮きイネ品種T65にこれら3つのQTL領域を導入したQTL集積系統NIL1-3-12を作出した。このNIL1-3-12は深水依存的に節間伸長を行うが、浮きイネ系統C9285の節間伸長には及ばないことから、この3つのQTLでは全ての浮きイネ性を説明できないことが明らかとなった。NIG1-3-12では浮きイネ(C9285)に比べ特に初期生育が劣ること判明したため、NIL1-3-12と浮きイネ(C9285)を交雑しF2集団を作出後、深水時の初期生育に関するQTL解析を行い、新たに2つのQTLを検出した。この2つのQTLを第1,3,12染色体QTLと同時保持した個体は,深水状態でより節間伸長を誘導することが明らかになった。 3)浮きイネ第1染色体に座乗するQTLの同定の試み 第1染色体に座乗するQTLを同定するために、高精度連鎖解析を行い、QTL座乗領域を180kbに特定した。この領域に座乗する候補遺伝子の発現解析を行い、深水依存的に発現が上昇するGA20酸化酵素遺伝子を見いだした。現在、候補領域に座乗する遺伝子群について形質転換体を作出中であり、深水依存的な節間伸長に寄与する第1染色体QTLの同定を完了したい。
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