計画研究
植物が曝される多くの環境ストレスは、ゲノムの不安定性を増大させることが知られている。特にDNAそのものが受ける損傷は、DNA組換え等を誘発する重大な要因となる。我々は以前の研究で、DNA二本鎖切断が通常の分裂サイクルからエンドサイクルへの移行を早めることを見出した。しかし一方で、分裂組織ではDNA損傷により細胞分裂が停止する現象も知られている。これはDNA損傷チェックポイントと呼ばれる機構によるもので、細胞分裂が停止している間にDNA修復を行うことにより、変異を持たないゲノムを娘細胞に伝達することを可能にしている。動物ではDNA損傷チェックポイントは複数の細胞周期ステージで誘起されることが知られているが、シロイヌナズナではDNA二本鎖切断に応答して主にG2期停止が起こる。平成25年度の本研究で、我々はG2/M期遺伝子の発現制御に関わるR1R2R3型Myb転写因子がDNA損傷チェックポイントに働くことを見出した。R1R2R3型Myb転写因子には遺伝子発現を活性化するタイプと抑制するタイプの二種類が存在するが、DNA損傷時は後者のタイプのMyb転写因子が安定化し、積極的にG2/M期遺伝子の発現を抑制することが明らかとなった。この際、G2/M期遺伝子の全てではなく、一部の遺伝子セットを特異的に発現抑制することも明らかになった。以上の成果は、R1R2R3型Myb転写因子がDNA損傷ストレス下において細胞分裂の停止状態を保持する上で必須な機能をもっていることを示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は根における細胞分裂からDNA倍加への変換機構を明らかにすることを目標としており、これについてはサイトカイニンによる細胞周期制御という観点から論文を発表するところまで到達することができた。また、平成25年度までに、分裂領域における細胞増殖の停止機構についても新たな知見を得ることができた。特に、本新学術領域において中心的な課題である環境ストレスの観点から、DNA損傷と細胞分裂との関連性が見えてきたことは特筆に値する。最終年度はこの新規な知見についても論文発表を目指し、本研究をさらに前進させるつもりである。
今後は根に環境ストレスを与えた際に、細胞周期の進行がどのように変化するかをイメージング手法を駆使して解析する。また、細胞分裂からDNA倍加への移行を制御する新たな転写因子についても解析の幅を広げていく予定である。一方、根においてはDNA倍加が起きた後に、DNA倍加に依存しない二段階目の細胞成長も存在することが明らかになったので、どのような制御機構がその二段階目の細胞成長に関わるのか、またどのようなシグナルの制御下にあるのか等についても解析を進めていく。
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