研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
22119010
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
杉本 慶子 独立行政法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, チームリーダー (30455349)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞伸長 / サイズ制御 / シロイヌナズナ / 核内倍加 / 転写制御 |
研究概要 |
植物の成長は細胞増殖とその後の伸長成長により規定される。細胞成長を最終的に停止させるしくみは植物の器官サイズを決める上で極めて重要であり、様々な環境要因に応答した植物器官の柔軟な成長制御を実現していると考えられる。シロイヌナズナの転写因子 GTL1は細胞成長の終了時期に発現し、細胞成長を停止させる。本研究ではこれまでにGTL1を介した細胞成長のメカニズムを解明するため、GTL1によって直接転写制御を受ける下流標的遺伝子の同定を進めてきた。これらの遺伝子のプロモーター領域にはGTL1が直接結合することが予想されるため、まず全ゲノムクロマチン免疫沈降解析を行い、GTL1がプロモーター領域に強い結合性を示す3,900個の遺伝子を同定した。また並行してマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析を行い、GTL1に依存して転写量が変化する1,694個の遺伝子を同定した。これらの結果を統合することによりGTL1の直接下流因子として可能性の高い182個の遺伝子を単離し、このなかから核内倍加への関与が示唆されているユビキチンリガーゼAPC/CのアクティベーターCCS52A1に注目してさらに分子遺伝学的な解析を行った。この結果、GTL1がCCS52A1のプロモーター領域に直接結合しその発現を抑制すること、またこの発現制御機構が能動的な細胞成長抑制を司る主要経路として機能することを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のとおり、これまでにGTL1がCCS52A1の発現抑制を介して核相依存的な細胞成長を制御するしくみは明らかになったが、GTL1がいかに核相非依存的な細胞成長を制御するかはまだ分かっていない。また環境変化に対応した成長戦略を実現するためには、環境要因の変動によってGTL1の発現量や機能が変化することが予想されるが、その制御機構も未解明である。後者については、乾燥や低温、光などの環境ストレスによってGTL1の発現が変化することが分かってきており、こうしたGTL1の発現調節を行う上流シグナルネットワークを解明するために、GTL1の発現に必要なプロモーター配列を決定した。次にこれらの配列に直接結合し、GTL1の発現を誘導する上流転写因子を同定するためyeast one-hybrid screeningを行い、これまでに約20個の候補因子を単離した。これらのなかには植物の発生制御に関与する転写因子やストレス応答に関与する転写因子等が含まれ、GTL1の発現が遺伝情報や環境情報によって多層的に制御されている可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後はGTL1による核相非依存的な細胞成長の制御機構の解明を進める。これまでに同定している181個の下流候補因子についての機能解析を行う。このためにはまずそれぞれの遺伝子の欠損変異体と過剰発現体を整備し、表現型解析を行う。GTL1の下流で鍵となる働きをする遺伝子の欠損変異体は、細胞成長や器官成長に異常を示すことが予想されるが、ホモログ遺伝子が冗長的に働く場合や、並行したシグナル経路が関与する場合等、表現型として現れない可能性も考えられる。この場合には多重変異体の表現型も検討する。さらにこれらの変異体とgtl1変異体やGTL1過剰発現体との多重変異体を作成し、同定された下流遺伝子がGTL1を介した細胞成長制御にどう関与するかを検証する。 またGTL1の発現に影響する環境ストレス条件下でgtl1変異体やGTL1過剰発現体の表現型解析を行い、GTL1量の変化が環境変動下でのサイズ制御にどう影響するかを明らかにする。GTL1の発現が強く誘導される生育条件下ではgtl1変異体の表現型が強調される可能性が高いため、特にこうした条件下において野生株及びgtl1変異体の細胞成長を解析し、環境ストレスが細胞成長の開始や終了のタイミング、また成長速度をどのように調節するのかを明らかにする。さらにこれまでに同定したGTL1の上流転写因子の機能解析を進め、実際にこれらの因子がGTL1の発現を誘導するかどうか、またどういったシグナルネットワーク上で機能するのかを解明する。
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