研究領域 | 大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析 |
研究課題/領域番号 |
22119011
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐竹 暁子 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (70506237)
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研究分担者 |
沖 大幹 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (50221148)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 体内時計 / シロイヌナズナ / ショ糖 / デンプン / FT / 数理モデル / 開花 / 地球温暖化 |
研究実績の概要 |
概日リズムによるショ糖-デンプン生合成の制御:近年、デンプン合成や分解、そしてショ糖輸送体活性が体内時計によって制御されていることが次々と明らかになってきている。これらの体内時計によるデンプン生合成と輸送体の制御を仮定し、ショ糖―デンプン生合成プロセスおよび異なる組織間のショ糖輸送をモデル化した。日長変化によるショ糖枯渇の程度によって体内リズムの位相が変化する場合、実際に観測されたデンプン蓄積速度と分解速度の変化を非常によく説明できることが明らかとなった。また、当モデルはなぜデンプン蓄積量の変化がほぼ線形になるのか、その仕組みも説明可能である。興味深いことに、ショ糖輸送体の活性ピークは常に日暮れにみられることが予測された。これらの成果をもとに、花成がショ糖輸送に与える変化を定量的に把握するために、フロリゲンFTによるショ糖プロトン共輸送体の活性制御を考慮したモデルに発展させている。 FLOWERING LOCUS T(FT)の発現量変化動態モデルによる気候変動下での開花時期予測: フロリゲンとして知られ開花時期と強い相関がみられるFTの発現量は、アブラナ科においては日長(光周期経路)と温度(春化経路)という環境シグナルによって制御されている。日長変化は毎年予測可能であるのに対し、温度は短期間で大きく変動するとともに気候変動の強い影響を受けている。シロイヌナズナの近縁種である多年生ハクサンハタザオを用いた室内温度操作実験と野外実験、そして数理モデルを融合させたアプローチによって、どのような温度環境においてもFTの発現動態を予測し開花時期を見積もる手法を開発した。また、モデルによる予測を野外におけるFT発現量を定量化することによって検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体内時計によるデンプン生合成とショ糖輸送体の制御を仮定した数理モデルの研究成果を第4回International Symposium on Plant Growth Modeling, Simulation, Visualization and Applicationsや、第10回International congress on plant molecular biologyにおいて報告した。また当研究成果は論文としてFrontiers in Plant Science(Feugier and Satake 2013)において発表された。当モデルを発展させた研究成果を論文としてとりまとめ、現在査読中である。また、FT動態モデルの開発による開花時期予測を目的とした研究成果は、論文としてとりまとめ査読中の段階である。
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今後の研究の推進方策 |
植物種の多くは多回繁殖型多年生である。しかし、これまでの植物科学ではシロイヌナズナやイネなどの一回繁殖型植物が対象とされてきた。そのため、従来の開花研究においては、いつ繁殖を開始するかにのみに焦点が絞られ、いつ開花を終了し栄養成長へ逆戻りするかは研究されてこなかった。これまで申請者らは、多年生植物を対象に春化経路のハブ遺伝子として知られるFLC, それを抑制するVIN3, そしてFTの発現量変化を温度操作実験によって定量化することによって、どのような温度条件においても各遺伝子の発現動態を予測可能な数理モデルを開発してきた。平成25年度は、当モデルを用いた将来の気候変動下での開花時期を予測することで地球環境科学への貢献を目指すとともに、理論予測を実際の野外温度操作実験によって検証する。 一方で、申請者らによって開発されたショ糖輸送モデルを、本領域で解明されたFT遺伝子の多面的機能を取り入れることで発展させ、葉において生産された光合成産物の繁殖器官への輸送がFT遺伝子の発現量によってどのように変化するかを見積もることによって、栄養輸送と器官成長の問題を結びつける。さらにこのFT遺伝子を軸に、花成と栄養輸送の数理モデルを融合させることで、栄養成長と繁殖成長期間における栄養輸送動態を予測し、葉や繁殖器官への分配が季節とともにどのように変化するかを明らかにすることで、農学への応用を試みる。 イネ穂ネットワーク上での穎果数と穂数の変化に応じた登熟様式をとらえた数理モデルの解析も同時に進める。
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