研究領域 | 植物の環境感覚:刺激受容から細胞応答まで |
研究課題/領域番号 |
22120002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷 あきら 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40183082)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 環境応答 / 光受容体 / 植物 / 細胞 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本研究では、植物の光受容体分子の構造と機能や、その細胞内シグナル伝達機構に関する従来型の研究に加え、これまであまり手が付けられていない光に対する細胞応答、および、個々の細胞が受容した光刺激の個体応答への統合機構を軸に、異分野、特に各種技術開発の専門家と連携した研究を進めた。これにより、植物の新しい環境感覚システム像の先駆けとなる重要な成果が得られると期待される。また、植物環境感覚に研究の新しい試みとして、機械刺激に対する細胞応答の研究を行った。主要な成果は以下の通りである。 「組織器官間シグナル伝達」について、A03細川班と共同でフェムト秒レーザーによるシロイヌナズナ芽生え穿孔実験を進め、光刺激の受容後、子葉から胚軸へ未知シグナルが維管束を通じて伝わり、胚軸のオーキシン応答性が上昇することを示した。また、A03高橋勝利班および平井優美博士(理化学研究所)らと共同で、光に対する代謝物応答の質量分析による解析を進めた。さらに、A03神原班と共同で植物の微細組織における遺伝子発現計測技術の開発を進め、個体毎の遺伝子発現応答に大きな個体差が存在することを見出した。 「光受容体による細胞機能制御の分子機構」について、フィトクロム分子種であるphyAとphyBの各種キメラ分子を発現する形質転換植物を解析し、フィトクロム分子上の各ドメインがphyAの特殊機能とどのように関わるかを明らかにした。さらに、瀬戸口浩彰博士らとのグループと共同で、これらのドメインが特定の植物種内でどのように変異しているかを考察した。 「圧迫刺激に対する細胞応答」について、三村班の西村いくこ博士らの協力を得て、様々な細胞構造がGFP標識された遺伝子導入シロイヌナズナ約160系統を整備し、網羅的に解析を進めた結果、力学的刺激でGFP蛍光の局在が変化する系統を見出し、細胞応答が起こる条件を詳しく検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に推移した。フェムト秒レーザーについては、植物に対する影響を最小限に抑えつつ子葉と胚軸の間の連絡を遮断することに成功し、この結果、未知シグナルの存在を示すことができた。また、微細組織における複数遺伝子の発現解析技術が確立し、その結果として、従来は単純な並行関係で考えられていた遺伝子同士の発現が複雑にゆらいでいる様子が観察され始めた。さらに質量分析についても、光応答によるシグナルの差が観察されるようになり、大規模データを揃えることができた。次の段階としては、情報科学的手法により、ここから意味のあるデータを引き出す必要がある。以上のように、新技術を用いた解析は順調に進みつつあるが、今後は、これらを論文として顕在化することにも力を注ぎたい。
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今後の研究の推進方策 |
本領域の活動も3年が終了し、フェムト秒レーザー、微細試料遺伝子発現解析、イメージング質量分析を利用することにより、光応答に関するまったく新奇の知見が得られつつある。今後も、これらの共同研究を軸に、シロイヌナズナの芽生えをモデルとして、個体レベルの光応答に関するこれまでにないタイプの解析を進める。また、遺伝子発現解析については、網羅的な遺伝子発現解析が可能な技術にまで拡張したい。質量分析については、これまでにないタイプの大規模データが得られたので、情報科学の専門家と連携しつつ、その解析手法の開発も進める。これらの研究を進めることで、領域の目指すところをいち早く具現化し他の分野をリードするような研究を展開する。
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