計画研究
植物は、植物に特有の光受容体によって光情報を感知している。その分子レベルの作用機構に関する研究は、分子遺伝学的手法の導入により急速に発展した。しかしながら、「個々の細胞応答が個体の応答としてどのように統合されるのか」については研究が著しく立ち遅れている。本研究では、この分野における実績に基づき、レーザー顕微手術、一細胞遺伝子発現計測、質量顕微鏡などを利用した新しいタイプの研究を強力に進め、光応答における組織/器官間シグナル伝達に関する新奇性の高い成果を上げることを目指した。また、従来から行っている光受容体の作用機構に関する研究や、我々が最近発見した、細胞変形に対する細胞応答や力学応答に関する解析を進めた。主要な成果は以下の通りである。個体レベルの光応答については、これまで、計画研究・細川班と共同でシロイヌナズナ芽生えに対してフェムト秒レーザーを用いた顕微手術法の開発を進めてきた。本年度は、光応答に関わる変異体で子葉と胚軸の連絡を絶った場合の光応答を解析し、オーキシン以外の未知シグナルが葉柄の維管束を通じて伝達されることを見出した。さらに、計画研究・神原班と共同で、微細組織片における遺伝子発現解析のための技術開発を進めた。また、計画研究・高橋勝利班と共同で光に対する代謝物応答の空間分布を新しく開発されたイメージング質量分析法により調べた。光受容体の作用機構についてはフォトトロピンの膜局在や、ARF1との相互作用に必要なフォトトロピン分子内の構造の解析を進めた。また、光ストレスにより葉緑体が破壊された場合におこる核遺伝子の発現調節について、GUN5タンパク質を中心に解析を進めた。さらに、機械刺激に対する細胞応答については、より多くの細胞質ゾル局在型GFP融合タンパク質の観察を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究は概ね順調に進捗した。顕微手術実験については、オーキシンを合成できない変異体においても、子葉から胚軸へのシグナル伝達によって胚軸の外から与えたオーキシンに対する感受性が上昇することが示され、未知シグナルがオーキシンそのものである可能性は低いことが示された。また、イメージング質量分析については、ガラス板にそのまま張り付けたシロイヌナズナの黄化芽生えからシグナルを得るための条件を確立した。さらにこの実験系を用いて赤色光による脱黄化過程の解析を行い、フィトクロムの作用によって子葉におけるトリアシルグリセロールとスクロースの量が激減するこを見出した。また、機械刺激応答については、細胞を圧迫しながら観察するための装置を開発し、これを用いて、様々な細胞質ゾル局在型GFP融合タンパク質で、その流動性が圧迫により著しく低下することを見出した。以上のように、新技術や異分野研究者との連携により植物の光応答や環境応答に関する新奇の知見を得ることができた。
本研究により、フェムト秒レーザー、微細組織片遺伝子発現解析、イメージング質量分析が、植物の環境感覚研究に有効であることが示されつつある。しかしながら、これを植物生理学分野の研究としてまとめるためには、対象とする現象に応じた深い解析が必要になる。陰刺激に対する胚軸促進応答に関するフェムト秒レーザーを用いた研究については、これまでの成果を踏まえつつ、遺伝子発現解析なども行うことにより未知シグナルの性質を明らかにしいく。また、微細組織片遺伝子発現解析については、計画研究・神原班らの努力により、RNA-seq法による網羅的解析への拡張が進みつつあるので、これを利用した組織毎の光応答研究を早急に開始したい。さらに、イメージング質量分析で明らかになった興味深い代謝物応答については、その分子機構を探るべく、分子生物学的・細胞生物学的な解析を多方面から進める。圧迫刺激に対する細胞質ゾル局在タンパク質の流動性低下については、カルシウムイオンの関与などについて、共同研究を進める計画である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件) 備考 (3件)
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