本年度は、温度情報受容メカニズムを明らかにするための馴化・脱馴化の生理条件の詳細な検討、および凍結情報受容メカニズムに関する研究と細胞膜プロテオーム解析に関する基盤技術を確立した。 まず、馴化・脱馴化条件の検討を行った。非常に複雑な植物を取り巻く温度環境から季節的な温度変化を的確に読み取るためには、温度感知(温度センサー)や感知した温度情報の処理機構だけでなく、最終アウトプットである凍結耐性を詳細に検討する必要がある。本計画では、ルシフェラーゼ導入変異株全体の観察が中心課題となるため、植物体全体を用いた凍結耐性試験が適当である。そこで、個体全体の凍結耐性に対する馴化温度や脱馴化時間などを検討した結果、1)脱馴化で凍結耐性が完全に失われた植物を暗所であっても再び低温に曝すと凍結耐性が回復すること、2)8℃での低温馴化では長期間馴化した場合でも2℃馴化で得られる凍結耐性には達しないこと、などの興味深い結果が得られ、次年度以降の研究推進の基礎が確立した。 次に、凍結情報受容機構に関する研究を行った。凍結耐性の高い植物細胞では小胞体が特徴的な凍結挙動を示すことが報告されている。そこで、凍結耐性が高く単一細胞層を観察しやすいネギを用いてER凍結動態を観察した。その結果、細胞周辺が凍結すると同時にERは流動を止め、フィラメント状の構造が小胞状へと変化した。他の実験結果と合わせると、この変化が細胞の凍結情報受容機構と関連することを示唆している。 最後に、種々の植物を用いて、低温馴化前後で単離した細胞膜及び細胞膜マイクロドメインのタンパク質組成を質量分析法により網羅的に分析した。その結果、細胞膜プロテオームは低温に動的に応答し、多くのタンパク質が量的・質的に変動することや、マイクロドメインには特定のタンパク質が存在し、これらも低温応答をすることが明らかとなった。今後の細胞膜機能解析の基礎が構築された。
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