計画研究
MIZ1タンパク質の特性を理解するために、miz1-1突然変異体でMIZ1-GFPを発現する形質転換体を作出して解析した。MIZ1-GFPのシグナルは、根の皮層細胞と側部根冠組織にみとめられ、且つ、可溶性タンパク質ならびに小胞体膜の原形質側表層に分画されたが、その発現領域および発現量は水分屈性の発現過程で変化しなかった。さらに、MIZ1過剰発現体を作出して解析した結果、MIZ1過剰発現体では水分屈性が顕著に亢進された。この水分屈性の亢進はmiz2変異によって完全に抑制されたことから、MIZ2がMIZ1の下流で機能することが示唆された。加えて、miz1-1の抑圧突然変異体を単離し、その特性解析と変異原因遺伝子の同定を進めた。また、シロイヌナズナの根では、水分屈性の発現時にコルメラ細胞中でアミロプラストの分解がみられることを明らかにしているが、これにオートファジーが関与する可能性、ならびにコルメラ細胞の液胞化、小胞体の極性変化を伴うことが示された。これまで、自然界における水分屈性の貢献度はわかっていない。そこで昨年度にシロイヌナズナの側根が水分屈性を示すこと、主根と同様に側根の水分屈性にもMIZ1が必要なことを明らかにした上で、今年度は土壌中で水分勾配を形成させる実験系を構築し、野生型、miz1-1、MIZ1過剰発現体を用いて、水分屈性が根系形成、バイオマス・種子生産、生存に及ぼす影響を解析し、水分屈性が自然界で乾燥回避に機能することを証明した。これまでに示唆された水分屈性制御機構の植物種による違いを理解するために、単子葉植物のイネの根の水分屈性能を解析した。その結果、イネ根の水分屈性にはオーキシンの生合成、輸送、作用が重要な制御要因として機能し、それは、これまでに明らかにしたシロイヌナズナやミヤコグサにおけるメカニズムと異なるものであることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
これまで根の水分屈性能を証明し、それを制御するユニークな分子を初めて発見し、その分子機構の解明に向けて大きな貢献をしてきたが、この水分屈性が自然界でどのように機能するかは明らかでなかった。しかし、本研究ではMIZ1過剰発現体の水分屈性が野生型の2倍ほどに亢進されること、根系の大部分を占める側根も水分屈性を示し、それにもMIZ1が必要なことを明らかにするとともに、自然界を模擬した土壌中で水分屈性能を解析する実験系を構築した。その結果、水分勾配下(全体的に水ストレス下にある条件)では水分屈性が根系の発達に大きく影響し、高水分側に水分屈性によって根が分布するようになり、植物体の乾燥下における生存率の向上をもたらすことがわかった。この能力は、水分屈性を欠損したmiz1突然変異体で小さく、逆にMIZ1過剰発現体で有意に大きかった。これは、水分屈性能を改善して水利用効率を高めるとともに、乾燥地における農業生産を拡大できる可能性を示す成果である。また、総括班との共同研究としてLC-MS/MSを用いて解析を行い、MIZ1と相互作用する候補因子として、複数分子を得ることができた。さらに、miz1突然変異体の表現型(水分屈性欠損)を抑制する突然変異体(miz1サプレッサー)が見出され、その変異原因遺伝子の同定が進んでいる。これらの現状は、MIZ1タンパク質の機能解明に向けて大きな前進であり、今後、MIZ1と相互作用して水分屈性を制御する分子およびmiz1サプレッサーを同定することがMIZ1機能の特定につながると期待される。
これまでの研究で問題となった点、あるいは今後解決すべき課題もいくつかある。まず、MIZ1のプロモーター活性をpMIZ1:GUSおよびpMIZ1:GFPで解析すると、根冠細胞でのMIZ1 mRNAの蓄積が示唆される一方で、そのMIZ1タンパク質は根冠細胞のみならず、伸長領域の皮層細胞で強く発現することがわかった。また、MIZ2タンパク質は根のいずれの組織・細胞でも発現した。したがって、MIZ1およびMIZ2がどの細胞で機能して水分屈性を制御するのか、特定できていない。その解決策として、現在、MIZ1およびMIZ2、miz1およびmiz2のGAL4-enhancer trap系統を作成しており、それらの解析によって、それぞれが機能する細胞群が明らかになると考えられる。さらに、シロイヌナズナの根の水分屈性の発現にはオーキシン量の低下が必要であるが、PINタンパク質などのオーキシン輸送体を必要としない。ところが、イネ根の水分屈性の発現にはオーキシン輸送を必要とすることがわかった。このように、オーキシンの関わり方が重力屈性と異なる点や、それが植物種によって異なることがわかってきた。これらの事実を説明する論理が必要であり、これを解決するために、トランスクリプトームやプロテオーム、MIZ1およびMIZ2関連分子の解析、さらにはmiz1抑圧変異体原因遺伝子の解析で見出される制御候補因子とオーキシンの関係を解析する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 3件)
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