計画研究
本研究では、根の水分屈性の分子機構を明らかにするための解析を行っている。平成25年度に得た主な成果は、以下の通りである。1. 免疫沈降法およびプロテオーム解析によって、水分屈性制御因子MIZ1と相互作用する候補分子としてNPH3を同定し、その機能欠損系統の水分屈性能が低下していることを明らかにした。また、これまでに単離したmiz1-1突然変異体の表現型を抑圧する突然変異体 (mzp1) の変異原因遺伝子が第4染色体上長腕の約150 kbpの領域に座上することを明らかにし、複数の塩基置換を確認した。さらに、MIZ1過剰発現体を用いたトランスクリプトーム解析を行い、MIZ1の発現量の違いで変動する因子や水分屈性応答と相関のある変動を示す因子の特定を進めた。2. フェムト秒レーザーを用いてシロイヌナズナの根のコルメラ細胞の破壊が、重力屈性と水分屈性に与える影響を解析した結果、コルメラ細胞の破壊によって重力屈性の低下が認められたが、根の水分屈性は無処理区と同程度で、水分屈性へのコルメラ細胞の寄与は、重力屈性とは異なることがわかった。3. シロイヌナズナはオーキシン輸送非依存的に水分屈性を発現するが、イネはオーキシン輸送依存的な水分屈性を示すことを明らかにした。4. MIZ1の機能発現にMIZ2が必要であることを示してきたが、その詳細は未解明であった。そこで、miz2バックグラウンドでMIZ1-GFPを発現する系統を作出し、水分屈性発現時のMIZ1-GFPの局在を調べた結果、MIZ2は水分屈性発現に伴い、MIZ1の局在を直接的または間接的に変化させる機能を有すると考えられた。5. L-グルタミン酸が、根端のグルタミン酸リセプターを介して細胞内カルシウム濃度を上昇させることによって、水分屈性を著しく亢進することが見出された。
2: おおむね順調に進展している
根の水分屈性に果たすMIZ1とMIZ2の機能を明らかにするための解析では、これまでの成果に加えて、それらと相互作用する分子を見出すとともに、miz1サプレッサーの原因遺伝子を同定する解析も進んだ。また、MIZ2がMIZ1の局在制御にかかわる可能性を見出し、今後ユニークな小胞輸送系とMIZ1の関係を解明できると期待され、さらに、MIZ1およびMIZ2が機能する細胞群を特定するための解析も順調に進んでいる。昨年度までに遅れ気味であった、MIZ1過剰発現体などの突然変異体を用いたトランスクリプトームならびにフェムト秒レーザー実験を実施することができて、その結果の解析も進んでいる。加えて、L-グルタミン酸処理が水分屈性を著しく促進し、それが細胞内カルシウム濃度を上昇させて水分屈性を促進する仕組みを見出したことの意義も大きい。
最終年度は、それぞれの成果の論文作成と同時に、継続中の解析を進めて、各実験項目を完結させたい。研究計画に大きな変更はないが、これまでの仮説に反して、シロイヌナズナでは、重力感受を担うコルメラ細胞は水分屈性のための水分勾配感受に関与しない可能性が見出され、水分勾配センサーの実体を理解するための解析を、根冠以外の組織(細胞群)にて検討する必要がある。MIZ1およびMIZ2の機能細胞群の特定を目的に、複数の方法で解析しているが、IR-LEGO法については、基生研の指導を仰ぎながら行う。さらに、水分屈性発現機構における植物種による違いも明確になりつつあり、とくに既知のオーキシン輸送系を介した水分屈性制御系と、それに非依存的な水分屈性制御系、それらのクロストーク機構が当該分野のブレークスルー的な知見になると考えられるので、それらの解析を優先的に進める。
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Plant Science
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