計画研究
光合成を行う植物にとって光は環境情報の中でも特に重要である。当班ではこれまでの研究成果を基に、研究が先行している光環境感覚に関与する分子に注目し、植物光受容体の分子構造と機能、光受容・シグナル伝達機構の解明を目指している。1)青色光受容体の一つフォトトロピン(phot)に関する研究。a)シロイヌナズナphot2 LOV2-キナーゼ試料のX線小角散乱による構造解析を中迫班と共同で行い、基底状態の二量体構造、光反応にともなう構造変化の情報を得た。b)phot1のLOV2-キナーゼの各種アミノ酸置換体の解析から、キナーゼ活性制御にLOV2のN-末端側領域が重要な役割を果たすことを明らかにした。c)シロイヌナズナphot2全長試料のX線小角散乱による構造研究を中迫班と共同で行った。d)インドのグループと共同でトマトphot1変異株に関する研究を行い論文発表した。2)シロイヌナズナphyBの生理機能発現最小単位であるN-末端センソリードメイン(phyB-N)を用いた研究。a)phyB-NのPr型、およびそのPfr型分子構造を模倣するアミノ酸置換体の結晶化条件スクリーニングを行ったが未だ完全な結晶系の確立には至っていない。b)phyBシグナル伝達因子の一つPIF3との共結晶化を目指してPIF3の高純度試料の調製系を確立した(松下班と共同研究)c)PIF3のphyB-Nの分光学的性質に対する効果を調べ、PIF3が光反応にはほとんど影響を与えないが、PfrからPrへの暗回帰を阻害することを明らかにした。d)phyB-Nをリガンドとするアフィニティーカラムを作製し、シロイヌナズナ緑化組織抽出液中のphyB-N結合タンパク質を探索した所、Pfr特異的に結合する複数のタンパク質が見つかり、そのN-末端アミノ酸配列解析から、ある代謝系の酵素タンパク質複合体と同定され、現在詳細を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度予定していた1)シロイヌナズナphotに関する研究の、photキナーゼの光制御機構解析および、LOV2-キナーゼ部分の高次構造解析に関しては、研究実績の項で述べた様に充分な研究成果を上げ、その内の幾つかは、国際学会発表および論文発表を行い、全長試料の研究が現在進展中である。2)phyB-Nの研究に関しては、そのX線結晶構造解析を目指して結晶化条件スクリーニングが絞り込まれ結晶様物質を得たが、残念ながら構造解析に耐えうるX線散乱パターンを示さず、さらに結晶化条件のリファインを行っている。さらにPr→Pfr光変換にともなう構造変化を調べるために、Pfr型の分子構造をもつと考えられるアミノ酸置換体純品の調製にも成功し、そのスクリーニングも行い有望な結果を得た。さらにPIF3の純品調製にも成功し、phyB-NとPIF3との共結晶作製に向け、両者の相互作用に関する基礎データも得ている。さらにphyB-Nをリガンドとするアファイニティーカラムを用いて、Pfr型に特異的に結合する新規のタンパク質複合体を検出したが、これはこれまでのフィトクロムの常識を覆す作用機構を提示する可能性が有り、非常に興味深い発見でありその詳細な解析を進めている。
継続中の研究を進め成果のまとめを図るとともに新たな研究も行う。1)シロイヌナズナphotに関する研究。a)phot高次構造解析:既にシロイヌナズナLOV2からキナーゼドメインを含む試料およびクラミドモナス全長試料のX線小角散乱による解析に成功したが、クラミドモナスphotとシロイヌナズナphotはそのオリゴマー構造やN-末端構造がかなり異なるために、シロイヌナズナ全長の構造解析が必須である。既述の様に、シロイヌナズナphot2に関してはLOV1を含む全長分子に関してはポジティブな結果を得ている。これを進めシロイヌナズナ全長試料のX線小角散乱による構造解析、および結晶化とX線結晶構造を目指す。b)キナーゼ活性化機構の解析:シロイヌナズナphot1は光屈性を始めとする生理機能発現に自己リン酸化が必要で、これに関与する複数のセリン残基も同定されている。これらの残基のリン酸化がphotキナーゼの青色光による活性化においてどの様な役割を果たすのかを、アミノ酸置換などにより解析する。2)シロイヌナズナのphyBに関する研究。a)現在最終段階にかかっているphyBセンソリードメイン(phyB-N)のPr型試料の結晶化を完成させ、X線結晶構造解析を行う。さらに、Pfr型の分子構造をとるとされるY/Hアミノ酸置換体の結晶化も同様な条件で可能と考えられ、スクリーニングを進める。b)phyBシグナル伝達因子PIF3の調製に成功したので、phyB-Nとの相互作用の分子基盤を解析するとともに、phyBとの共結晶の作成と結晶構造解析を試みる。c)新規に見つけたphyB-N651相互作用タンパク質の機能およびそのphyB依存の機能光制御機構の解析を行い、その機能および作用機構の解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (27件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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