研究領域 | 植物の環境感覚:刺激受容から細胞応答まで |
研究課題/領域番号 |
22120006
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三村 徹郎 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20174120)
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キーワード | 液胞 / 小胞輸送 / リン酸 / 温度障害 / セントポーリア / シロイヌナズナ / ミロシン細胞 / ポプラ |
研究概要 |
細胞内環境の維持と変動は、細胞内で生じるあらゆる生理機能の基盤的要素であり、無機イオン・代謝物質やタンパク質の濃度・分布として捉えることができる。本研究では、温度、塩ストレス時の水・イオン環境、必須栄養素のリン酸への応答、さらに病原体や共生微生物に着目し、細胞膜、および小胞体から液胞につながる単膜系オルガネラの構成要素である膜構造、構成タンパク質、あるいは低分子量代謝物質や無機イオン類が、これらの外部環境の変化に対してどのように変動するかを明らかにし、その分子機構を解析することを目的とした。平成23年度の研究成果として、 1.アフリカ原産のセントポーリアの葉で、急激な温度降下により生じる柵状細胞の傷害が液胞膜の破壊によることを明らかにし、さらにそれに関わるタンパク質組成の変動を調べた。また単離細胞系の確立を試みた。 2.低リン環境で生育したシロイヌナズナ根が高リン環境に遭遇した際に短時間で発現する遺伝子を複数見出した。また、ポプラが落葉時にリンを回収する機構についても解析を進め、冬季に幹に有機リン酸化合物が貯蔵されることが明らかになった。 3.アブラナ科植物は、葉のミロシン細胞の液胞に集積したミロシナーゼの働きにより、食害部位で病害虫の忌避物質を生産する。ミロシン細胞は、維管束細胞に隣接して分布しているが、葉原基から両細胞はそれぞれ協調して分化することが分かった。この協調的分化は、液胞型SNARE依存的なエンドサイトーシスにより制御されていた。また、非病原性バクテリアの感染応答にもエンドサートーシスが関与していた。一方、光や重力などの環境刺激に対する屈性反応の調節を植物特異的なミオシンが行っていることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、領域の課題である「植物環境感覚」の理解のうち、主に温度感覚、化学物質感覚、さらに病害虫による「障害感覚」の研究を進めている。化学感覚では栄養塩として重要なリン酸イオン環境に注目して研究を進めているが、シロイヌナズナを用いて外部リン酸濃度が上昇するときに、極めて短時間で発現が上昇する複数の遺伝子を見出すことに成功した。これらの遺伝子の機能は判らないが、発現系を利用することで、リン受容に関わる因子の同定を進められると考え実験系の構築を進めている。また、ポプラでは落葉時に葉のリン酸が回収され、それが幹に有機リン酸として蓄えられることを野外の植物を用いて初めて見出した。さらにこの機構の詳細を明らかにするために、実験室で約5ヶ月で一年を廻すことが出来る実験系の確立に成功した。 セントポーリアの温度感受性については、温度差の大きい環境にさらされると短時間で柵状細胞の液胞が崩壊して、細胞質pHが低下し、細胞内のオルガネラが毀損されることを証明した。この温度感受性に関わる因子を明らかにするために、柵状細胞の単離、環境変化に応答するタンパク質の網羅的解析を進めた。この途中で単離した柵状細胞が温度応答性に関してかなりヘテロな系であることを見出し、その原因の追求と改善方法の確立に時間を要した。 障害応答については、ミロシン細胞の分化過程の解析を進め、原基細胞を明らかにするとともに、その分化が細胞内小胞輸送系と関与することを見出している。 実験研究のため、全てが上手く進んでいる訳ではないが、全体としては概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
1.セントポーリア温度感受性については、細胞の単離系の確立を進めるとともに、液胞の解析系、温度環境に応答するタンパク質、脂質単離とその網羅的解析を進める予定である。 2.リン酸応答系については、シロイヌナズナのリン応答遺伝子の発現解析を進めるとともに、その上流遺伝子とリン認識の分子機構を探る。また、ポプラについては有機リン酸化合物の同定を進めるとともに、リン酸代謝、輸送に関わる遺伝子の解析を進める。 3.生物障害に関与するミロシン細胞の分化機構を明らかにするとともに、物理的・化学的環境刺激に対する植物の応答における細胞内膜系の役割について、応答異常を示す変異体を用いて、その分子機構を解明する。
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