計画研究
細胞内環境の維持と変動は、細胞内で生じるあらゆる生理機能の基盤的要素であり、無機イオン・代謝物質やタンパク質の濃度・分布として捉えることができる。本研究では、温度、塩ストレス時の水・イオン環境、必須栄養素のリン酸への応答、さらに病原体や共生微生物に着目し、細胞膜、および小胞体から液胞につながる単膜系オルガネラの構成要素である膜構造、構成タンパク質、あるいは低分子量代謝物質や無機イオン類が、これらの外部環境の変化に対してどのように変動するかを明らかにし、その分子機構を解析することを目的とした。平成24年度の研究成果として、1.アフリカ原産のセントポーリアの葉で、柵状組織の細胞において急激な温度降下により液胞膜が崩壊して酸性の液胞内容物が漏出し、細胞死に至るという傷害メカニズムを見出し、細胞外のCaイオンが温度傷害の引き金になることを明らかにした。また、大量の柵状細胞の単離が難しかったことから、葉組織を用いて馴化過程のプロテオーム解析を進めた。2.低リン環境で生育したシロイヌナズナ根が高リン環境に遭遇した際のリン応答遺伝子発現解析を行い、高リン処理後10分~30分で発現する遺伝子を複数見出した。この遺伝子のプロモーター領域にレポーター遺伝子をつなぎ、リン酸応答過程の解析を始め、実際リン添加に伴い、レポーター遺伝子の発現を確認した。3.アブラナ科植物は、葉のミロシン細胞の液胞に集積したミロシナーゼの働きにより、食害部位で病害虫の忌避物質を生産する。ミロシン細胞は、維管束細胞に隣接して分布しているが、葉原基から両細胞はそれぞれ協調して分化することが分かった。地上部におけるミロシナーゼ集積細胞(ミロシン細胞)の維管束に沿った分化にPIN1のエンドサイトーシスが関与していることを示した。地下部でのERボディの発達にセンチュウ感染応答が関与することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
実験は、概ね順調に進展しており、当該課題に関する論文も出版され始めている。但し、実験課題の1について、一昨年度の段階において見出された単離細胞系の不均一性が解消しきれなかったため、計画を植物体全体を利用した遺伝子、プロテオーム解析に変えた、その遺伝子探索は順調に始められているが、次世代シークエンサーを利用した解析が、数ヶ月かかるため、各計画実施時期を変更した。また、実験課題2については、シロイヌナズナのリン酸応答遺伝子変異体の作成は無事終わったので、現在その解析を始めるとともに、代謝物質分布解析も続けており、その計画実施時期を変更している。
研究課題1については、遺伝子解析を進めている。現在ターゲットとしているCaチャンネル遺伝子がクローニングできれば、その発現解析を行う予定である。また、セントポーリアの形質転換の可能性を検討している。研究課題2については、リン酸添加応答に関与する複数の遺伝子が見出されつつあるので、それらの発現、機能解析を進める予定である。実験課題3については、引き続き二次代謝を介した生物防御応答について解析を進める。また、脂質系分子の関与も明らかになりつつあるので、それについての解析も進める予定である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件)
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