計画研究
細胞内環境の維持と変動は、細胞内で生じるあらゆる生理機能の基盤的要素であり、無機イオン・代謝物質やタンパク質の濃度・分布として捉えることができる。本研究では、温度、塩ストレス時の水・イオン環境、必須栄養素のリン酸への応答、さらに病原体や共生微生物に着目し、細胞膜、および小胞体から液胞につながる単膜系オルガネラの構成要素である膜構造、構成タンパク質、あるいは低分子量代謝物質や無機イオン類が、これらの外部環境の変化に対してどのように変動するかを明らかにし、その分子機構を解析することを目的とした。平成25年度の研究成果として、1.アフリカ原産のセントポーリアの葉で、急激な温度降下により生じる柵状細胞の傷害が液胞膜の破壊によることを明らかにし、それが細胞内へのCa2+の流入によって引き起こされることを明らかにした。2.低リン環境で生育したシロイヌナズナ根が高リン環境に遭遇した際に短時間で発現する遺伝子にGFPをつないだ形質転換体を作成し、実際にリン遭遇に際し遺伝子発現が上昇することを確認した。また、ポプラが落葉時にリンを回収する機構についても解析を進め、冬季に幹に有機リン酸化合物としてフィチン酸が貯蔵されることを明らかにした。3.生物環境(病害)対する細胞応答系として、葉のオイルボディが抗菌物質を生産することを見いだした。通常オイルボディは脂質の集積部位として知られているが、今回葉のオイルボディの新たな機能が明らかになった。また、外部環境に対する細胞応答として、植物器官の屈性応答反応の調節を担っている組織を同定した。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、領域の課題である「植物環境感覚」の理解のうち、主に温度感覚、化学物質感覚、さらに病害虫による病害感覚の研究を進めている。温度感覚として、セントポーリアの温度感受性については、温度差の大きい環境にさらされると短時間で柵状細胞の液胞が崩壊して、細胞質pHが低下し、細胞内のオルガネラが毀損されることを証明した。この温度感受性に関わる因子を単離細胞から明らかにすることを目指したが、インタクト細胞の単離が相当に困難だったため、植物組織を実験対象に代え、因子の一つとして、Ca2+が関与することを明らかにした。化学感覚では栄養塩として重要なリン酸イオン環境に注目して研究を進めているが、シロイヌナズナを用いて外部リン酸濃度が上昇するときに、極めて短時間で発現が上昇する複数の遺伝子を見出すことに成功した。これらの遺伝子のプロモーターにGFPをつなぎ、リン応答を再現することに成功した。また、ポプラでは落葉時に葉のリン酸が回収され、それが幹に有機リン酸として蓄えられることを野外および実験室の植物を用いて見出し、その有機物質がフィチン酸であることを証明した。病害感覚では、植物のオイルボディが、抗菌物質の蓄積に機能していることを初めて明らかにした。実験研究のため、全てが上手く進んでいる訳ではないが、全体としては概ね順調に進展していると思われる。
1.セントポーリア温度感受性については、温度変化に依存したCa2+刺激に関与するイオンチャンネルの同定を進める予定である。既に阻害実験を始めており、候補因子を検討している。候補因子が確定した場合はその遺伝子単離を進める予定である。2.リン酸応答系については、シロイヌナズナのリン応答遺伝子の発現解析を進めるとともに、その上流遺伝子とリン認識の分子機構を探る。また、ポプラについては有機リン酸化合物の同定が終ったので、その細胞内蓄積機構、リン酸動態、リン酸代謝、輸送に関わる遺伝子の解析を進める。3.生物障害に関与するミロシン細胞の分化機構を明らかにするとともに、物理的・化学的環境刺激に対する植物の応答における細胞内膜系の役割について、応答異常を示す変異体を用いて、その分子機構を解明することを予定している。
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