研究領域 | 植物の環境感覚:刺激受容から細胞応答まで |
研究課題/領域番号 |
22120009
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高橋 勝利 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (00271792)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 質量顕微鏡 / 植物組織 / MALDI |
研究実績の概要 |
当初は波長3ミクロンの赤外レーザーを質量顕微鏡装置に組み込み、IR-MALDIによるマトリクスレス・イメージングを実現する計画であったが、使用予定であった赤外レーザーが故障し出力が大幅に低下したため修理を試みたが、メーカーから修理不能と判断された。 紫外パルスレーザーをそのまま用いてマトリクスを塗布していない植物体の分析を試みたところ、細胞壁の薄い植物体の場合には切片を作らずにマトリクスレスで直接分析することが可能であることを発見した。これにより、凍結切片の作成が困難な植物体の直接分析に対する可能性が開けた。 計画研究班及び公募研究班と協力して、シロイヌナズナの根、芽生え、ニチニチ草の若葉などを対象にした質量顕微鏡測定を実施した。切片を作成せずに植物体を直接特殊な導電性ガラス基板上に貼り付け、そこにマトリクス物質を蒸着した後、または蒸着せず直接、質量顕微鏡装置に導入したのち、細く絞った紫外パルスレーザー光を試料表面に照射しイオンを生成させ、そのイオンの質量を分析するタスクを、レーザー照射位置をラスター状にスキャンさせながら繰り返すことで質量顕微鏡測定を実施する流れを確立することに成功した。このための装置制御ソフトウエアの作成をほぼ終了することができた。 当該研究に用いている質量分析装置は分解能と精度が非常に高いため、一回の測定で100GBを超える膨大なデータが生成する。このデータを効率的に解析するソフトウエアが世の中に存在していなかったため、解析用のソフトウエアの開発を実施した。これにより、高分解能・高精度質量顕微鏡装置から生じるデータを効率的に解析し、植物体の特定の部位に局在する物資の質量を精密に決定することができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では24年度に、赤外レーザーを用いたマトリクスレス質量顕微鏡測定を実現し、計画研究班及び公募研究班と有機的に協力して様々な植物組織の質量顕微鏡測定を実施することになっていた。 しかし、使用する予定であった赤外レーザーの故障により、赤外レーザーではなく、これまで用いてきた紫外パルスレーザーを用いたマトリクスレス質量顕微鏡測定を実施し、マトリクス無しで植物体乾燥物の直接質量顕微鏡測定が可能であることを発見し、凍結切片化及びマトリクス添加が難しい植物体の質量顕微鏡測定の道筋をつけることに成功した。 これにより、計画研究班及び公募研究班の様々な研究者と協力して多種多様な植物体の質量顕微鏡測定を行うことが可能になったが、実際に共同で測定をしてみると様々な問題が浮上した。質量顕微鏡測定に供する試料の調製法の問題、装置が動き始めてから一回の質量顕微鏡測定が終わるまでに非常に時間がかかる問題、さらに、質量データが超高分解能であるため世の中に出回っている質量顕微鏡測定データ用解析ソフトウエアが使えないという問題点など、有機的な協力体制の構築の障害になる問題を解決することを試み、それらを解決することに成功した。 質量顕微鏡測定に供する試料調製で問題になっていたマトリクスの添加法に関しては、マトリクスレスの測定が可能であることを発見すると同時に、マトリクスをスプレーで塗布する代わりに、真空蒸着することにより簡便に再現性良くマトリクスを添加することができることを発見した。データ解析ソフトウエアに関しては一からソフトウエアの作成を行い、高分解能・高精度・大容量データを効率的に解析する手法の提案を行った。測定にかかる時間に関しては装置構成を見直すとともに、追加配分により購入した高繰り返し型紫外パルスレーザーを装置に組み込むことで解決を図った。 以上の通り、当初の計画以上に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進として、さらなる計画研究班・公募研究班との協力体制の強化により、より多くの植物体測定を行い、生物学的に有意義な情報を得ることがあげられる。このためには、さらなる測定装置の高速化とデータ解析の効率化・高速化が必須である。 まず、質量顕微鏡装置の改良について、さらなる高速化のために24年度の追加配分により導入した高繰り返し型紫外パルスレーザーの装置への組み込みを進め、レーザー照射時間を大幅に短縮することにより、全体としての測定時間をこれまでの半分以下に削減することを目指す。また、装置を構成する各パーツ間の信号伝達等の安定化を行い、安定して多数の植物体の測定を行うことができる環境を整備する。これに加え、質量顕微鏡測定用の試料調製法を確立するとともに、調製法をプロトコール化し、計画研究班・公募研究班の班員に広く伝えることにより、可能な限り各自の実験室で試料を調製してもらい、当該研究室での調製項目を減らすことを試みる。 質量顕微鏡装置から生成する大容量のデータを効率的に解析するためのアルゴリズム開発も急務である。このため、当該研究室で開発に成功した解析ソフトウエアを領域の班員に配り、操作法に習熟してもらうとともに、当該研究室の質量顕微鏡装置で測定した大容量データを各班員の研究室に持ち帰って解析してもらうための環境整備も必須である。
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