研究領域 | 植物の環境感覚:刺激受容から細胞応答まで |
研究課題/領域番号 |
22120010
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
細川 陽一郎 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (20448088)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フェムト秒レーザー / 植物細胞 / レーザーマイクロダイセクション / レーザー細胞操作 / レーザー衝撃波 |
研究実績の概要 |
高強度のフェムト秒レーザーを顕微鏡で集光した時、集光点で多光子吸収が引き起こされ、さらには切断現象や爆発現象が引き起こされる。本研究では、この局所的な切断現象や爆発現象を駆使し、生きた植物組織のレーザーマイクロダイセクションを実現し、さらには単一レベルの植物細胞の機能制御を目指している。本年度、明状態と暗状態にある植物細胞内の葉緑体とペルオキシソームの接着力を、フェムト秒レーザー誘起衝撃力を用いて評価する新しい手法開発を進めた。シロイヌナズナの葉の切片を顕微鏡ステージに固定し、葉の表層から3層目の細胞にフェムト秒レーザーを集光し、そこに存在するペルオキシソームが接着した葉緑体近傍にフェムト秒レーザーを集光照射し、そこで数10μmに局在した衝撃力を発生させ、それにより葉緑体に接着したペルオキシソームを引き剥がすことに成功した。明状態と暗状態にあるペルオキシソームの引き剥がし確率を調べ、さらに確率のレーザー光強度依存性を求めた。細胞内で衝撃力が発生する条件を水中で再現し、その近傍に原子間力顕微鏡の探針を配置し、探針の振動挙動を解析することにより、細胞内で発生する衝撃力の大きさを定量化した。これらのデータを下に明状態と暗状態でのペルオキシソームの引き剥がし確率の衝撃力強度の依存性を求め、統計解析を行った結果、明状態におけるペルオキシソームの接着強度が暗状態の2倍程度になることが初めて明らかになった。さらに、植物細胞壁にフェムト秒レーザーにより遺伝子を導入するため、フェムト秒レーザーを導入できる顕微鏡下で外圧を制御できる容器(ホルダー)を作製した。空気を封入したガラスキャピラリーを容器内に配置し、10気圧程度の圧力を制御できることを確かめた。この圧力容器を用いて植物細胞への遺伝子導入を検討していこうとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究は、ペルオキシソーム研究の権威である本研究領域の計画班研究者である西村幹夫先生と共同研究を進めることにより達成されたものである。上記に示した実験結果は、他の方法で得ることはできない。この成果により、我々が有するフェムト秒レーザー誘起衝撃力を利用した先端計測技術が、従来法の置き換え技術ではなく、植物学研究における新規な知見を得るための独創的なツールと成り得ることが具体的に示された。
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今後の研究の推進方策 |
本実験において、ペルオキシソームが受ける力を見積もり、それを接着力の指標としたが、実際のペルオキシソームと葉緑体の間の接着エネルギーを評価できた訳ではない。今後、この問題について深めていきたいと考えている。ペルオキシソームと同等の大きさを持つ1μmのポリスチレン微小球の表面に生化学的な処理を施し、基板に接着させ、微小球と基板の接着力を評価する。このモデル系を用いることにより、植物細胞内よりも再現性良く、多数の微小物体に働く接着エネルギーを評価することができる。ここで得られた実験データを運動方程式に基づく数値計算と照合することにより、微小物体に作用するレーザー衝撃力を運動方程式から予測できるようにする。 さらに、具体的な形でフェムト秒レーザーを利用した先端技術の有用性を示していくために、領域内外の植物学研究者との交流を深め、共同研究を促進し、植物学における新規性のある成果をあげていきたい。
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