計画研究
小胞輸送によるタンパク質や脂質の適切かつ正確な配置は,細胞の運動や形態変化,極性の形成などの「細胞の形と機能」に関わる多くのプロセスにおいて決定的に重要な役割を果たす.本研究では,「細胞の形と機能」の獲得において重要な役割を担う小胞輸送の制御に関わる分子複合体群のX線結晶構造解析を行い,複雑かつ精密に制御された複合体構築の原理と機能メカニズムの解明を通して小胞輸送制御のメカニズムを原子の精度で明らかにすることを目的とする.今年度は,低分子量GTPase Rabを細胞小器官の膜に固定する役割を担う膜タンパク質GDFについて,リポソームに埋め込んだGDFを抗原とすることで,高分解能結晶の作成に有効だと考えられている立体構造を特異的に認識する抗体の調製を開始した.また,これまでに得られているGDFの結晶について,脱水処理などの工夫を続けたが,分解能の改善は見られなかった.SNAREタンパク質を小胞体膜に挿入するGET複合体では,部位特異的架橋によるTAタンパク質との複合体安定化を行った.架橋部位の同定と架橋条件の最適化を行うことで,今後の複合体の結晶化につながる結果が得られた.一昨年度,3.4 A分解能で構造決定を行ったM-Sec(膜融合の特異性と高効率性を保証するExocyst複合体のSec6サブユニットのホモログ)は,構造リファインメントを再検討することで分解能を3.0 Aまで向上させた. PIP2およびRalとの結合に関する機能解析の結果と合わせて,論文を投稿した.Exocyst複合体全体については,アフィニティータグの追加などで構造解析に適する試料の調製を試みたが,サブユニット間での発現のばらつきが大きいため,新たな工夫が必要だと思われる.構造未知であるSec10サブユニットについては,システイン残基への変異の導入などで4.5 A分解能程度の回折データは得られたが,構造決定には,結晶のさらなる改善が必要である.
3: やや遅れている
GDFタンパク質の研究では,高分解能結晶の作製を目的として調製したモノクローナル抗体が結晶の改善に寄与しなかった.その一因として,立体構造選択的な抗体が得られなかったことがあげられる.この問題点を解決するために,よりネイティブな状態に近い抗原であるリポソームに埋め込んだタンパク質に変更してやり直しを行っており,研究にやや遅れが生じている.GET複合体の研究では,部位特異的に架橋が可能な非天然アミノ酸によってGET3と基質TAタンパク質との複合体の安定化を試みた.架橋実験はおおむね順調に行えた.また,GET1-GET2複合体の発現系を構築できた.Exocyst複合体の研究では,Sec6ホモログの機能・構造解析を完了し,論文を投稿した.また,これまで結晶化が困難であったSec10サブユニットで4.5 A分解能のデータセットの収集まで進めたが,Exocyst複合体全体の調製に遅れが生じている.GET複合体は概ね順調に進んでいる一方で,GDFとExocystでやや遅れが生じている点から,全体としてはやや遅れていると評価した.
GDFタンパク質の研究は,高分解能結晶の作製を目指して,立体構造選択的な抗体の調製に集中する.GET複合体の研究は,架橋と質量分析によってGET3と基質TAタンパク質との相互作用に関わるアミノ酸残基を推定し,その情報をもとにシステイン残基を導入し,ジスルフィド結合による複合体の安定化を行い,結晶化を行う.GET1-GET2複合体の結晶化も進める.Exocyst複合体の研究では,Sec10サブユニット結晶の分解能の向上を検討すると共に,セレノメチオニン標識タンパク質結晶を用いた異常分散法による位相決定も試みる.Exocyst複合全体については,試料改善のために,タグを付加するサブユニットと不安定領域の欠失を検討する.
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