研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
22121004
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 主税 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 研究グループ長 (00357146)
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キーワード | シグナル伝達 / 分子複合体 / 電子顕微鏡 / タンパク質構造 / イオンチャネル |
研究概要 |
1.細胞・核内シグナル複合体の機構を解明するために、本研究ではタンパク質複合体精製サンプルを透過電子顕微鏡(TEM)で撮影し、画像から情報学的に複数の3次元再構成をする単粒子解析を行なった。本方法は結晶を必要としない。Signal peptide peptidase(SPP)酵素は、細胞膜内でペプチド鎖を切断する膜タンパク質である。アルツハイマー症の原因となるβ-amyloidを生産するγセクレターゼ酵素の活性中心サブユニットであるPresenilinと、アミノ酸配列が似ている。SPPは、その生化学的な扱い易さからγセクレターゼ酵素の機構を解明するモデルとして注目を集めている。また、C型肝炎ウイルスやマラリアの増殖などにも必須であるため、創薬のための標的タンパク質として期待されている。本研究では、SPPは4量体構造で活性を持つこと、さらに、単粒子解析により、SPPは全体として4回対称の弾丸様の構造を持ち、膜貫通部位の内部には、親水性の隙間があることが判明した。それはタンパク質の切断反応に水分子が必要であることと良く一致する。また、タンパク質の外壁の膜貫通側には薄い部分があり、基質となるシグナル配列を含むペプチド鎖の導入・排出口と考えられる(J.Biological Chem.,2011)。 2.(1)水溶液中の生体物質や細胞を、より自然な状態で高分解能観察するために大気圧走査電子顕微鏡(ASEM)を開発してきた。本顕微鏡は、細胞を固定するだけで、液中で高分解能で決定できる。今までの電顕の様に真空中にサンプルを置く必要がない。ASEMを用い、マイコプラズマ(Mycoplasma mobile)の迅速観察法の開発に成功した。マイコプラズマは大腸菌の1/25の体積しかないため、細胞構造は光の波長よりも小さく、光顕では観察・認識が難しい。金属染色により、細胞内にタンパク質複合体と思われる構造が観察できた(BBRC,2012)。(2)材料分野でも生体物質を使った自己組織化などの動態観察に成功した(Ultramicroscopy,2011)。 連携研究者 独立行政法人産業技術総合研究所 三尾和弘 川田正晃
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SPPは、細胞においてシグナルを伝達する重要な複合体であり、人間の疾病に関してもC型肝炎ウイルスやマラリアの増殖などに必須である。また、アルツハイマー症の原因となるβ-amyloidを生産するγセクレターゼ酵素のPresenilinと阻害剤を多く共有する。その構造を世界に先駆けて解明できたことは、大きな意義を有する。また、マイコプラズマは肺炎やリュウマチなど様々な病気の原因である。しかし、その研究は光の波長よりも小さな菌体サイズから容易ではなかった。Epon超薄切電顕法により観察はできるが、真空に耐えるための有機溶媒による前処理は微細な構造を変える恐れがあり、時間もかかる。ASEM観察法とその免疫ラベル法は、その研究と診断に応用できると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
電顕を用いた単粒子解析法に関しては、その画像処理を進めるために、低分解能で構造が決定されたタンパク質の構造を基にして、新たな電子顕微鏡画像から自動でタンパク質粒子像を拾い上げる技術を開発し、分解能の向上を可能にする。そして、生理機能に極めて重要で、かつ創薬のターゲットでもある新たなシグナル複合体タンパク質を用いて、実際に3次元構造解明を行い、そのメカニズムに迫る。ASEMに関しては、新たな免疫ラベル法と染色法を開発する。多種類の抗体によるラベル法に関しても、金ラベルを識別することで、複合体サブユニットの会合・解離を研究する。細胞の観察効率を上げるために、障子状に多数の薄膜を持つmulti-window型ASEMディッシュを、半導体加工技術を駆使して開発する。また、結晶成長観察に関しても数多くの条件検討を可能にするために、結晶成長用の小部屋を持つmulti-well型ASEMディッシュを開発する。
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