研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
22121004
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 主税 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 研究グループ長 (00357146)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 分子複合体 / 電子顕微鏡 / タンパク質構造 / イオンチャネル |
研究実績の概要 |
TEMを用いた単粒子画像解析法は、精製された個々のタンパク質の電顕像から画像処理により3次元構造を計算する方法である。結晶を必要としないため、結晶作製が難しい複合体の構造解析に大きく貢献することが期待されている。元来は、鮮明な画像が期待されるウィルスや巨大タンパク質を得意とする方法で、USAを中心として対称性の高いウィルス外殻で4Åを上回る分解能が達成された。しかし、もっと小さな通常サイズの分子の解析が強く求められている。本手法は情報学とバイオの学際領域にあり、縦割社会の日本では研究者は少ない。分野を超えた研究展開が求められている。我々は、これまで様々な情報学手法を取り入れ、様々な柔らかい情報処理を取り入れた新手法を開発してきた。これらの手法を用いて、microtubuleのGTPによる構造変化(多構造)を解明し、分解能は最高で8Å台に達した。(JCB 2012) また、シグナル制御複合体を理解するには、細胞レベルでの研究も重要である。これら複合体は、一般に細胞内でダイナミックに会合・離散しながら機能を発揮するものが多い。光学顕微鏡観察は液中の細胞を観察できるが、光の波長は紫外線でも200nmであるので、この値を飛躍的に上回る分解能は期待できない。そのため、細胞を液中で高分解能観察できる顕微鏡が求められていた。ASEMは、解放環境にある溶液中の細胞が観察できる倒立型走査電顕である。細胞は固定するだけで水溶液中の自然な状態で観察できる。8nm分解能を有する。さらに、水溶液中で抗原が保護されるため、幅広い抗体・抗原の組み合わせによる免疫電顕ができる(JSB 2012)。さらに、光顕分解能以下の微結晶を直接観察によりスクリーニングできることが判明した(IJMS 2012)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画研究では、単粒子解析に関しては独自のアルゴリズム開発に成功して、SPPとMicrotubuleというシグナル伝達に重要な2つのタンパク質の詳細構造を解明することに成功したため(JBC 2011, JCB 2012)。また、1 mmを下回るタンパク質微結晶の構造をASEMで液体中で観察・同定できるようになったのは、我々のグループの電子顕微鏡技術と千田グループの結晶化技術の融合研究による成果であるため。この手法は、全く新しい結晶スクリーニングの方向性と考えます(IJMS 2012)。また、ASEMによる液中免疫電顕法の論文が出版できたため(JSB 2012)。
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今後の研究の推進方策 |
単粒子解析法の精度をSA法等を用いて向上させ、ある程度不安定で完全複合体粒子が50%程度の割合でも、高分解能で解析が可能なアルゴリズムを開発する。開発された方法を用いて、同領域内で連携して、高エネ研・千田等とヒストンシャペロン複合体を、東大・深井等とExocyst複合体を解析する。また、チューブリン、チャンネルの構造解析をさらに進め、領域内外での共同研究を展開する。 ASEMに関しては、分解能を向上させる重要な鍵の一つは、ビーム径を縮小することである。ここでは、電子銃の加速電圧を最適化する。さらに、電子銃として電界放出型を膜越しの観察に用いることによって走査ビーム径を縮小し、SiN膜越しでも高分解能で観察できることを示すことで、さらなる電界放出化への道筋をつくる。観察効率を上げるために、8枚窓ASEM dishを開発する。また、冷却ステージを導入し、その効果を検証する。ASEMのサンプル側に関しては、細胞内の様々な構造を高コントラストで迅速に観察するために、細胞内小器官を染め分けることを可能にする染色液を開発する。さらに、リガンドや抗体などによるASEMに効果的な標識ラベル法を開発する。ASEMを改良してタンパク質結晶の高スループット観察を実現し、本領域の千田等とシグナル複合体の結晶化に向けての共同研究を展開する。
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