研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
22121005
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
千田 俊哉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (30272868)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 精製 / タンパク質複合体 / 結晶化 / X線結晶構造解析 / クロマチン / ヒストン / 転写 / ヌクレオソーム |
研究実績の概要 |
HIRAは溶液中でDNAと非特異的に結合し、可溶性の凝集体を形成していることがわかったので、全長での結晶化は困難と結論し、ドメインごとの発現・精製を行ってきた。その結果、C末端側の残基番号644番以降のドメイン(HIRA(C644))の精製に成功した。ゲル濾過およびCDスペクトル等による分析の結果、HIRA(C644)は溶液中で二次構造を形成するとともに、DNAと非特異的な凝集体を形成しない事も明らかにした。現在、HIRA(C644)を用いて結晶化のスクリーニングを行っている。CAF-1に関しては、昆虫細胞の発現系であるMultiBac発現系を導入し、複合体全体としての発現・精製を開始した。種々の検討の結果、p150-p60-p48の三者複合体、p150-p60の二者複合体に関して良好な発現が認められた。これらの複合体が安定な条件の検討をしつつ精製を行い、CAF-1の粗精製に成功している。CIA-H3-H4-Mcm2複合体の結晶構造解析に関しては、生化学的、生物学的な解析から、本複合体が複製段階において複製フォークの進行速度を調節している可能性を見いだしたので、詳細な解析を行うために、本複合体の構造解析を開始した。CIA-H3-H4-Mcm2複合体が安定化する条件を見いだし、その条件付近での結晶化を進めている。また、ヒストンのN末領域が結晶化中に分解されてしまうため、サンプル中のプロテアーゼの除去や複合体の形成法の改善なども進めた。転写基本因子であるTFIID複合体に関しては、240Lの酵母培養液からスタートし、電子顕微鏡観察に十分な量のTFIIDサンプルを得ている。TFIIDと複合体を形成させるため、RNAポリメラーゼII(Pol II)に関しても精製を開始し、20 Lの酵母培養液から純度約90%のタンパク質を0.2mg程度得る事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HIRA全長の発現、精製を達成する事はできたが、溶液中でHIRAが大腸菌由来のDNAと非特異的に相互作用して可溶性の凝集体を形成することが分かった。様々な手法でこの凝集体の解消を試みたが成功しなかった。しかし、この過程でHIRAのN末端側領域がDNAを認識する部位であるらしいという知見を得る事ができた。HIRAの全長の結晶化は困難であると判断されたため、計画を一年以上前倒ししてHIRAドメインの結晶化を開始している。CAF-1に関しては、予測に基づき天然変性領域を取り除いたp60の発現を目指したが、大腸菌内で不溶化してしまい精製できなかった。次に全体構造の発現精製を目指した。その結果、昆虫細胞でCAF-1複合体の発現に成功し粗精製にも成功した。当初の計画より多少の遅れは有るものの結晶化に入る目処が立って来た。現在は、研究協力者の産総研・佐藤主税博士の助けを借り、CAF-1複合体を電子顕微鏡でチェックしながら結晶化を進めている。CIA-H3-H4-Mcm2複合体に関しては、高度に精製した複合体を大腸菌の発現系を用いて調製することに成功した。結晶化のスクリーニングの結果、幾つかの条件で結晶を得て、回折データを収集して構造決定を行ったが、全ての場合に関してMcm2がヒストンから解離した状態で結晶化してしまっていることがわかった。多くの難しい問題が生じたが、コンストラクトの変更や物理化学的、生化学的解析を組み合わせながら、結晶化のスクリーニングを進めている。TFIIDに関しては、担体での構造の不安定性を改善するために、Pol IIと複合体にして解析をするという方針を打ち出した。そのために必要なPol IIの精製を行い、精製方法を確立するとともに、得られたPol IIの電子顕微鏡像も取得し、得たサンプルがほぼ均一なものであることを確認ずみである。
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今後の研究の推進方策 |
HIRA(C644)は、解析可能な結晶が得られ次第セレノメチオニンを用いた単波長異常分散法により構造決定を行う。結晶の質が悪い場合は、結晶工学的な手法で結晶の質を改善する。更に、HIRA-Cabin 1-UBN1複合体の精製を試みる。この際、プロテアーゼによる分解パターンの解析等を行い、適切な発現領域を決定しながら精製をすすめることを計画している。精製したサンプルを用いて電子顕微鏡や小角散乱による解析を行い、その結果を参照しながら結晶化を進める。結晶構造解析が可能な結晶が得られ次第、放射光を用いた解析を試みるが、本複合体は分子量が大きいため、重原子クラスター等を用いた位相決定を試みる予定である。CAF-1に関しても、精製したサンプルの電子顕微鏡や小角散乱による分析と結晶化を平行して行う。CAF-1と相互作用するPCNA, CIA等との複合体や、天然変性領域の欠損などが結晶化に良い影響があるか等も検討する。TFIIDに関しては、TATA boxを含むDNA断片にPol IIとTFIIDを結合させて、電子顕微鏡による負染色像の観察を行う。H25年度は、電子顕微鏡による観察を開始する。何れの複合体に関しても結晶化の成功率を上げるために電子顕微鏡およびX線小角散乱の研究者との共同研究を推進していくことになる。 基本的に細胞生物学的な実験は、構造解析を完成させてから連携研究者と共同で行う事になるが、HIRAの非特異的なDNA結合やMcm2とヒストンの結合条件に関することなど、細胞生物学的な研究を行う上での基礎となる生化学的な知見が蓄積しつつあるので、これらのデータを連携研究者と共有して細胞生物学的実験の基盤を固めるように留意したい。
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