真核生物では、生命の維持や活動に必要な遺伝情報を保持する核と、蛋白質合成の場である細胞質が、核膜によって隔てられているため、細胞が正常にかつ効率よく機能するためには、核と細胞質の間で連携した核膜を介した物質輸送が必要である。核-細胞質間物質輸送では、核輸送担体がタンパク質やRNA等分子量の大きな積荷分子を認識し、輸送担体-積荷分子複合体を形成し核膜を通過する。本研究では、核-細胞質間物質輸送において、核輸送担体がどのように積荷分子を認識し、どのような仕組みで核膜を通過するのかを、放射光を用いた高精度測定により得られる高精度の複合体構造に基づいて明らかにする。本年度は、RNAの核外輸送に関わる複合体の構造解析から着手した。RNAの一つであるtRNAの核外輸送について明らかにするために、tRNA/exportin-5/RanGTP3者複合体の構造解析に向けた試料調製を行った。複合体の各分子の大量発現・精製方法及び複合体形成方法について検討した。tRNAの精製については、tRNAの合成時に分解されていることが分かり、分解されない安定した合成・精製系を確立した。RanGTPは単離すると非常に不安定で複合体形成効率を悪くしていることが、各分子の精製実験及び複合体形成実験から分かった。安定なRanGTPを単離するために数種類のタグ及びコンストラクトを作成し、発現・精製を行ったが、安定なRanGTPを得ることに成功しなかった。今後、RanGTPが安定状態で複合体を形成させる方法を検討する。
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