研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
22121006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 栄樹 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (00294132)
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キーワード | 核外輸送因子 / RNA / Ran / X線結晶構造解析 / 放射光 |
研究概要 |
真核生物では、生命の維持や活動に必要な遺伝情報を保持する核と蛋白質合成の場である細胞質が、核膜によって隔てられているため、細胞が正常にかつ効率よく機能するためには、核と細胞質の間で連携した核膜を介した物質輸送が必要である。核-細胞質間物質輸送では、輸送担体が分子量の大きな積荷分子を認識し、輸送担体-積荷分子複合体を形成し核膜を通過する。本研究では、核-細胞質間物質輸送において、輸送担体がどのように積荷分子を認識し、どのような仕組みで核膜を通過するのかを、放射光を用いた高精度測定により得られる高精度の複合体構造に基づいて明らかにする。本年度は、RNAの核外輸送に関わる複合体の構造解析と放射光ビームラインのミニビーム化に対応できる装置の導入を行った。 RNAの核外輸送に関わる複合体(tRNA/exportin-5/RanGTP)の試料調製では、安定なRanGTPを単離するために数種類のタグ及びコンストラクトを作成し、発現・精製を行ったがどれも成功しなかったので、Ranを粗精製の状態で取り扱い、活性を保持している間に複合体を形成させる方法で行った。複合体形成後、ゲル濾過と電気泳動によって、複合体が得られていること確認をした。複合体の収量を上げるためには、tRNAの合成量を増やす必要があったので、同領域研究内の沼田先生(産総研)との意見交換によりtRNAの合成方法を改善し、大量に合成することに成功した。tRNAの皇を増やし、複合体形成させたところ、複合体が全く得られず、ゲル濾過では、ほとんどがボイドの位置に移動した。tRNA:Exp-5の割合が1:2なら複合体が得られているので、今後、効率よく安定な複合体を得るためのtRNA:Exp-5の割合を検討する。 放射光ビームラインのミニビーム化に対応するために、高精度高速試料回転軸の導入を行い、測定位置をより精密に合わせられるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
tRNA/exportin-5RanGTP複合体を確認することはできたが、複合体の物理化学的な性質を調べつつ、結晶化を行うのに十分な収量が得られていない。Exp-5/RanGTPのtRNAへの結合能力がpre-microRNAより弱いのは予測していたが、tRNAとExp-5/RanGTPの割合で、複合体形成に影響が出ることは予測していなかった。しかし、確実に3者複合体は得られており、結晶化について試みている。また、大量に安定なtRNAを合成するにも確立できた。 放射光を用いた測定法の開発については、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
効率よく安定な複合体が得られるtRNA:Exp-5の割合を探索する。ゲル濾過で、粗精製RanGTPの持込だと考えられる核酸が確認されており、持込の核酸が複合体の形成効率を下げている可能性もあるので、RanGTPの精製についても検討を重ねる。精製できた複合体については、結晶化を進める。複合体の安定な条件や結晶化に適した条件を見つけるために、光散乱や熱変性実験について行う。収量が上がらなければ、使用するtRNAの種類を変更し、結晶化を試みる。
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