生体防御の最前線にあたる細胞表面の受容体とガン細胞や病原体などの非自己抗原との相互認識を構造生物学的に原子レベルで可視化することは医学的に重要な免疫応答や感染経路の作用機序を理解するために必須である。そこで本研究では、アレルギー等の発症に重要な免疫応答シグナル制御複合体、(1)最近発見されたT細胞の共抑制分子CD160と複数の受容体が関わるCD160-BTLA-LIGHT/HVEMシグナル制御複合体、(2)gp49受容体とインテグリンαvβ3との複合体、を主な対象とし、複雑な構成となる複合体が活性・抑制の相反するシグナルを巧妙に調整する分子基盤を明らかにする。これらは速く弱い動的な複合体を形成するので、X線解析に加え、研究代表者らが得意とする複数の物理化学的測定を用いて特徴的な認識機構を見出したい。他方、表面受容体は糖鎖修飾を必要とするなど発現系に困難が伴うが、研究代表者らが実績のあるヒト培養細胞や蚕個体を用いた発現系を利用する。本年度は、CD160を中心として、HVEMとの結合実験を完了させ、速度論的なパラメーターと結合比(1:1)を決定した。また、同じくHVEMに結合するBTLAとの結合の特徴比較を行えた。HVEMとCD160の結合は、BTLAと競合することがわかり、CD160とBTLAの機能制御が物理的にも影響することが推定された。CD160の構造解析については、結晶化を進めたものの、これまでに解析可能な結晶は得られていない。HVEMとの複合体等の結晶化を進め、良い結晶が得られる条件を探すことを優先する。他方、gp49とインテグリンαvβ3については、ヒト293細胞で発現させ、初期の結合実験に成功した。
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