計画研究
生体防御の最前線にあたる細胞表面の受容体とガン細胞や病原体などの非自己抗原との相互認識を構造生物学的に原子レベルで可視化することは医学的に重要な免疫応答や感染経路の作用機序を理解するために必須である。そこで本研究では、アレルギー等の発症に重要な免疫応答シグナル制御複合体を主な対象とし、複雑な構成となる複合体が活性・抑制の相反するシグナルを巧妙に調整する分子基盤を明らかにする。本年度は、免疫系受容体NKR-P1/CD161について、リガンドのLLT抗原蛋白質の結晶化に成功した。これは巻き戻し法による蛋白質調製を行い、丹念な結晶化条件の検討の結果であった。まだ構造解析途中であるが、全体の立体構造は通常のC型レクチン様受容体と似ていた。結晶中では単量体として存在し、通常のレクチンで見られるCaイオンは見られなかった。この構造を基にNKR-P1との結合モードについて、現在検討を進めている。他方、麻疹ウイルスH蛋白質に対する侵入阻害剤開発については、インシリコスクリーニングを進め、東京大学創薬センターの化合物ライブラリーを利用して、500化合物について結合解析を行った。複数の結合活性を有する化合物を同定したので、これを基に解析を進める予定である。CD160とgp49については、まだ地道な努力を続けている状況である。これらについてのモノクローナル抗体を検討すると同時に、抗体医薬に取り組みたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
LLT1の結晶構造解析に成功したことはかなり重要な進展と言える。これによりCD161/NKR-P1とLLT1の結合による免疫制御の分子機構に迫るせいかと言えると同時に、これらに対する阻害剤(あるいは活性化剤)の開発として、インシリコスクリーニングや抗体医薬品へと進めることが期待できる。麻疹ウイルスH蛋白質に対してもインシリコスクリーニングと化合物の結合実験を並行して進めることができているので、免疫・感染症制御に向けた実践的な研究へと進める目処がついてきた。
これまでにLLT1の結晶構造解析に成功したことを踏まえ、CD161/NKR-P1との複合体の構造解析に進める目処がついた。これを強力に進めるために、CD161/NKR-P1蛋白質の大量調製法が重要となる。現在のところ、結合実験に利用可能な程度のヒト培養細胞での少量の調製に成功しているが、広範な結晶化条件検討を行うためには十分ではない。そこで、各種変異体等を作成して、これらの複合体の構造決定を目指す。これには、ヒト培養細胞だけではなく、大腸菌での巻き戻し系も並行して行い、可溶性の改良された変異を見つけること等を進めて、成功へと導いて行きたい。また、麻疹ウイルスについては、具体的な結合化合物を詳細に解析を行う。これには結合実験や受容体結合阻害実験に加え、細胞膜融合活性実験やX線結晶構造解析を組み合わせて、合理的な阻害剤開発を目指す。これら以外の分子については、昨年度から継続している条件検討をさらに進めて、成果へとつながるようにしたい。
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