研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
22122002
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
久保田 義顕 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (50348687)
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キーワード | 細胞・組織 / 循環器・高血圧 / 発現制御 / 臨床 / 発生・分化 |
研究概要 |
発生期血管成長過程において、神経系組織をはじめとする多くの組織では、血管成長の最前線(vascular front)において血管Tip細胞が旺盛に糸状仮足を伸ばしつつ遊走し、後続の血管網はそのパターニングをもとに形成される。発生期網膜において、アストロサイトが血管よりも先にネットワーク構造を形成し、それを鋳型としてTip細胞の糸状突起が誘導されるという「血管-神経クロストーク」が存在する。本研究はこのTip細胞とアストロサイトの相互作用に関与する細胞・分子メカニズムを解明することを目的として遂行された。 我々は、この組織酸素応答のmasterregulatorであるHIF-1αが発生期網膜においては神経網膜、特に未分化神経前駆細胞に発現していることを見出した。神経網膜特異的HIF-1αノックアウトマウスは、アストロサイトの鋳型の形成が疎であり、Tip細胞が糸状仮足を伸ばす足掛かりとなる細胞外マトリックスのネットワークも疎であった。この原因として、神経網膜から放出されるPDGF-Aの発現が低下しているため、アストロサイトの増殖が減少していることが原因と考えられた。そこで神経網膜特異的HIF-1αノックアウトマウスにPDGF-Aを添加したところ、アストロサイトだけでなく血管の表現型も打ち消された。これらの結果は、血管Tip細胞とアストロサイトの相互作用の上流で、神経網膜の酸素応答システムが制御していることを示唆している(Nakamura-Ishizu et al Dev. Biol. 2011)。また、この神経網膜において、驚くべきことに血管内皮特異的VEGF受容体であるVegfr-2が発現しており、神経網膜特異的にVegfr2をノックアウトしたところ、血管網が密になることを見出している。この血管過剰形成のメカニズムとして、soluble formのVegfr2(sVegfr2)の関与が示唆されており、sVegfr2-floxマウスを作成(現在キメラマウス)している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果により組織酸素応答のmaster regulatorであるHIF-1αが発生期網膜においては神経網膜、特に未分化神経前駆細胞に発現していることを見出し、血管Tip細胞とアストロサイトの相互作用の制御機構であることを見出した(Nakamura-Ishizu et al Dev. Biol. 2011)。さらには、この神経網膜による血管発生の制御機構として、神経網膜にVegfr-2が発現しており、神経網膜特異的にVegfr2をノックアウトすると血管過剰形成の表現型を呈することまで見出している。このメカニズムとして、soluble formのVegfr2(sVegfr2)の関与が示唆されており、sVegfr2-floxマウスのキメラマウス作成まで終了している。これらの研究成果より、本研究は概ね良好であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
神経網膜による血管発生の制御機構として、神経網膜に発現するsoluble formのVegfr2(sVegfr2)の関与が示唆されており、sVegfr2-floxマウスのキメラマウス作成まで終了している。また、この神経-血管相互作用に毛細血管拡張性小脳失調症変異(Atm)遺伝子の関与も見出しており(Okuno et al. Net. Med. in revised)、Atmによる酸化ストレス制御機構の関与に関し、新規ノックインマウスを作成し、解析予定である。
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