研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
22122002
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
久保田 義顕 慶應義塾大学, 医学部, その他 (50348687)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 網膜 / 網膜血管新生 / アストロサイト / 神経網膜 / 網膜前駆細胞 / VEGF / HIF1 / VHL |
研究実績の概要 |
網膜血管発生において血管-アストロサイト相互作用の上流で未分化網膜前駆細胞がプライマリーの酸素応答システムとして働くことを明らかにした。網膜前駆細胞にVhl、Hif1aがアストロサイトよりも強く発現し、網膜前駆細胞特異的Vhl、Hif1aのノックアウトでは血管のパターニングが大きく崩れた。このメカニズムとして神経前駆細胞におけるHIF1a活性化はアストロサイトの増殖因子であるPDGF-Aの発現を誘導し、適切な密度のアストロサイト網を形成することで血管発生を制御することを見出した(Kurihara et al Development 2010; Nakamura-Ishizu et al Dev Biol 2012)。発生期網膜血管形成過程において、生後一週間はアストロサイトの鋳型に沿って網膜浅層を二次元的に血管成長が進行する。その後、網膜前駆細胞の存在する網膜深層に向けて血管が陥入し網膜深血管叢を形成するが、この際網膜前駆細胞はVEGFを旺盛に発現するにも拘らず、その領域を避けて血管が走行する。この知見は、何らかの未分化神経細胞領域への血管侵入抑制メカニズムが存在することを示唆している。そこで網膜前駆細胞に特異的に発現する分子を網羅的に探索すべく、マイクロアレイ解析を行った結果、他臓器では血管特異的受容体として知られるVegfr2が強く発現していることを見出した。さらには、網膜前駆細胞においてVegfr2を欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作成したところ、早期に(神経前駆細胞の分化以前に)網膜深血管叢に血管が陥入し、神経網膜において血管網が過剰になることを見出した。この変異マウスにおいて、網膜前駆細胞の増殖・分化に異常は無く、網膜前駆細胞におけるVegfr2が何らかの未知のメカニズムで血管侵入を防いでいる可能性を示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初目標としていた、『新生仔網膜における血管―神経ワイヤリングの鍵となる分子』として、平成24年度までの研究によりVegfr2がであることを強く示唆する知見を既に得ている。さらにはそのコンディショナルノックアウトマウスを作製済みである。このマウスのさらなる解析により、当初の計画以上のさらなる研究の進展が見込まれる。
|
今後の研究の推進方策 |
Vegfr2には通常の膜型タンパク(mbVegfr2)と、splicing variantでExon14以降を欠失するsoluble Vegfr2(sVegfr2)が存在することが、最近報告されている(Albuquerque et al 2009)。申請者はこの事象に着目し、網膜前駆細胞に発現するsVegfr2が、リガンドのVEGFをトラップすることで血管内皮細胞のmbVegfr2と結合するVEGFタンパクの量が減少し、血管侵入の抑制因子として働いているのではないかというメカニズムを想定している。sVegfr2のみを神経網膜においてノックアウトすべく、組織特異的にVegfr2の可溶型をsplicingで生じさせないような変異マウスを作成中である。平成25年度以降の研究においては、このsVegfr2が網膜深血管叢形成における血管―神経ワイヤリングの鍵となる分子であると想定し、神経網膜特異的sVegfr2欠損マウスを作成、その網膜血管を免疫組織学的に詳細に観察する。
|