計画研究
神経幹細胞ニッチの可能性がある基底膜様構造“フラクトン”の産生細胞及びフラクトンの生理機能を明らかにするため、フラクトンの構成成分の1つであるラミニンα5鎖を各種細胞で特異的に不活化したノックアウトマウスを作出した。具体的には、神経幹細胞及びその子孫特異的にCreリコンビナーゼを発現するGFAP-Creマウスを用いて、GFAP陽性細胞特異的にラミニンα5鎖をノックアウトしたマウスを作出した。また、血管内皮細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するTie2-CreマウスとLama5floxマウスを交配し、血管内皮細胞特異的にラミニンα5鎖をノックアウトしたマウスを作出した。上記の変異マウスおよび同腹の対照マウスから凍結薄切標本およびホールマウント脳室下帯標本を作製し、フラクトンの形成異常の有無を組織学的に検証した。その結果、血管内皮細胞特異的なラミニンα5鎖ノックアウトマウスの脳室下帯では、血管基底膜へのラミニンα5鎖の蓄積が顕著に減少したものの、フラクトンへの蓄積には変化がなかった。一方で、神経幹細胞特異的なラミニンα5鎖ノックアウトマウスの脳室下帯では、フラクトンへのラミニンα5鎖の蓄積が顕著に減弱していることが判明した。また、このマウスのフラクトンでは、ラミニンα5鎖に代わってラミニンα3鎖の蓄積が増加していることがわかった。以上の結果から、フラクトンは神経幹細胞およびその子孫によって産生される基底膜であり、血管基底膜とは独立した構造であることが明らかとなった。また、ラミニンα3鎖による機能補償が見られることから、フラクトンのインテグリン結合活性を完全に不活化するためにはラミニンα5鎖の欠失だけでは不十分である可能性が生じた。
2: おおむね順調に進展している
本課題では、フラクトンの分子実体および生理機能の解明を主題として研究を進めている。フラクトンを構成する成分の1つを用いたLama5floxマウスを用いることで、フラクトンを産生する細胞が血管内皮では無く、GFAP陽性の神経幹細胞及びその子孫であることを特定することができた。この結果は、フラクトンが血管基底膜の一部である可能性を明確に否定できただけでなく、フラクトン特異的にインテグリン結合活性を不活化するためのツールを獲得できたという点でも大きな進展である。一方で、他のラミニンα鎖による機能補償が観察されたことから、Lama5floxマウスを用いるだけではフラクトンのインテグリン結合活性を完全に消失させることには至らなかった。今後、フラクトンに存在するラミニン全てにおいて、そのインテグリン結合能を不活化したマウスを作製することにより、フラクトンの生理機能、特にその神経幹細胞ニッチとしての役割が明らかになるものと期待される。
フラクトンの生理機能の解明に重点を置いて研究を進める。これまでのフラクトンの実体解明を通じて、フラクトンに存在するラミニンは全てγ1鎖を含むことが判明している。今後は、ラミニンγ1鎖に変異を導入してインテグリン結合活性を不活化するマウスとGFAP-Creマウスとを交配し、フラクトンのインテグリン結合活性を不活化させたマウスを作製する。この遺伝子改変マウスの解析を通じて、フラクトンの真の生理機能を解明し、論文作成によって研究の収束をはかる。フラクトンが神経幹細胞のニッチとして機能しているかが、本マウスの解析によって明らかに出来るものと予想している。
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